焔と渦巻く忍法帖 第十六話

「アリエッタはイオンに双子の弟や兄がいるって話、聞いた事あるか?」
「・・・ない、です」
「そう、実際にイオンに兄弟なんているなんて話はない。それで更に問題なのは、もしシンクがイオンの兄弟だとしてもそんな人間を神託の盾の下っ端でダアトが使うと思うか、アリエッタ?」
「そんなの、ありえない、です。だって導師の血を引く人、今まで優遇されてたって、知りました」



アリエッタの言葉は間違っていない。稀有な能力、ダアト式譜術を使えるのは導師の血を引く人間だけなのだろう。でなければ被験者イオンが死んだ後、導師の血を引く直系の人間に導師の地位に立たせるはずだ、ダアトは。なのにそれすら出来ないというのには、導師の直系の人間が本当にいなかったか、預言に影響があるからその人間が使えなかったかだ。イオンに関して言えば年若い時から導師をやっていたことから、直系の人間がいなかったのだろう。

だが実際預言の事をあるなし抜きにしても、貴重な血を持つ一族の能力を絶やしたいと思うような輩はいない。そうでなければ二千年もの間、導師の力を守る事など出来ない。故に木の葉でも血継限界の血を残す為、その一族に女を優先的にあてがったり遺伝的に血継限界を発現させやすい男との婚姻を結ばせて来た。そして産まれて来た子孫の名前や家系図を正確に把握して、血を絶やさないように対策を取る。

重要人物の扱いはそれほどまでに大切、ダアト式譜術を尊ぶダアトがイオンの兄弟などという人物を放っておくはずがない。



アリエッタも血を残す裏の行為は知らずとも、導師の血族の事情は知ってはいる。イオンの兄弟という線が消えた事を理解した、アリエッタの理解を早めたルークは話を戻す。
「そこでイオン達と似たような立場が俺とそこのルーク・フォン・ファブレ様だ。俺に双子の兄弟なんていないし、そこの元アッシュに双子の兄弟なんて聞いた事ないだろ?アリエッタは」
「・・・はい」
「で・・・アリエッタ、お前はサフィールが何を研究していたのか知っているか?」
サフィールと知らない名前に誰かと視線をアリエッタが送り探すと、サフィールは首を振り自分がサフィールなのだと証明する。そこでアリエッタは首を傾げる。
「えっと・・・確かレプリカ技術って、本物にそっくりな物を作るぎじゅ・・・・・・っ!?」
記憶を揺り起こし自分の言葉に直しながら説明しようとするが、途端にアリエッタは何かに気付いたように驚き声を止める。
「説明の言葉を遮るのは悪いけど、多分アリエッタの思った事に補足を入れるぞ。レプリカ技術は生き物にも使える技術、つまりは・・・」
「朱炎、やめてください!」
固まるアリエッタに核心に入るよう、ルークが後詰めに言葉を重ねる。そして文字通り核をつこうとした時、イオンが言わないでくれと最大に声を上げルークにつかみ掛かる。だが無情にイオンを見たルークの目は何も感情がなく、声は止まる事はなかった。






「今目の前にいるイオンはレプリカ技術で生み出されたイオンのレプリカ。過去を知ってるはずなんてないんだ、元々」






「「「「!!!」」」」
真実の重みはこれほどなのか、驚きに身を委ねてしまった全員が顔をこれ以上ないほど引き攣らせる。イオンに関しては言われた瞬間つかみ掛かって握った手を落とし、力ない瞳で後ろによたよた後退する。
「・・・ルーク・・・じゃあ、本物のイオン様は・・・?」
サフィールのくだりから薄々予感はしていたのか、アリエッタは被験者の存在に関しての質問を泣きそうに恐る恐るしてくる。ここで否定しなければ本当に今のイオンがレプリカになる、なのに周りも当の本人も否定しない。それだけルークの言葉は信ずるに値する衝撃を伴っていた、アリエッタの決定項と言える言葉を真実だと思う程に。
「・・・そいつはサフィールが知ってるはずだ。もう生きていないんだろ?本当の導師イオンは」
「えぇ、二年前に亡くなりました」
「!・・・そんな・・・ヒッ・・・ヒクッ・・・」
サフィールは事実をありのままに告げる。やはりアリエッタにはその事実はきつく、泣こうとどんどん目に涙を溜めながら鳴咽が漏れてくる。だがここで止まる事は出来ない、アリエッタの為にもここで無知な輩達にも立場をしらしめる為にも・・・








15/21ページ
スキ