焔と渦巻く忍法帖 第三話

「うちはサスケは里を抜けました。もう戻ることはないでしょう」
その言葉を放った狐の面を被った青年は淡々と状況を説明していた。
「『うずまきナルト』として意思を最終確認しました。イタチに対する憎しみが強く、強制で里につれ帰ったとしてもまた力を求めて里を抜け出すでしょう」
「そうか・・・」



そう言ったのは三代目の火影ではなく、新たに五代目火影に就任した女性初の火影『綱手』である。
「三代目から承ったこの任務、うちはの一族復興は無理だと判断しました」
「わかった。これにてうちはサスケの監視の任を解く。ご苦労だった」
「それではこれにて・・・」
と言い、青年は立ち去ろうとした。
「待ちな。あんたはそれでいいのかい?」
すると途端に綱手から制止の声がかかった。
「それで・・・と言いますと?」
「その前に変化を解いて普通に喋りな。あんたの本音を聞きたい」
そう言われ変化を解いた青年はナルトの姿に戻った。



「で、それでって?」
「うちはサスケを里の敵にしてもいいのかって事さ。三代目の任務とかそういうの抜きで、あんたの本音を聞きたい」
綱手が里の敵という表現をしたのは間違っていない、というよりもその通りだ。忍は里に従属するもので、里に忠誠を誓う事で生きることを認められているのだ。しかし忍の中には自らの利益の為に里を裏切り、里に害をなすものもいる。
うちはサスケは復讐のために、かつて木の葉の里を裏切った忍『大蛇丸』が首領をつとめる音の里に行った。この大蛇丸は前に木の葉の里を滅ぼそうとし、その際に三代目の命を奪った大罪人だ。
「・・・考えるまでもなくアイツは敵だってばよ」
ナルトの口調は抑えてはいるが殺気が篭っており、火影である綱手さえも気を抜けば気合い負けしてへたりこんでいただろう。
「じっちゃんを殺したやつの所に行くようなやつを仲間だなんて思えないってばよ。サクラちゃんに頼まれたから説得をしたけど本当だったらあの場で殺してもよかったってばよ」
・・・紛れもない本音。そう綱手は感じていた。
「けどじっちゃんからは監視って言われてたし、サスケの意思に従えって言われたからワザと負けたんだってばよ」
任務となっていなければサスケの命はなかっただろう。下忍として活動している時のナルトと違い、素でのナルトは裏切った仲間に対して情け容赦を見せる事は有り得ない。実力も桁違いなのでうちもらすことも有り得ないのだ。



「これでうちは一族はもう木の葉から消える事は決定したんだよね、婆ちゃん?」
「・・・ああ、そうだ」
うちは一族がイタチに滅ぼされ、そのイタチは抜け忍になり暁という組織に入った。唯一の里内でのうちは一族であるサスケは先日里を潰そうとした大蛇丸の所に向かってしまった。事実上一族がいない。そんな状況でうちはの再興など出来る筈がない。それに生き残りが他の里にまで知れわたっている犯罪者なのだ。ここまでくれば未練がましくうちはの名を残しても得はない、寧ろ害にしかならないのだ。



「今度会ったら本気で殺していいんだよね?里を裏切ったんだし」
「・・・ああ」
綱手には悲しい事だった。演技をしているとはいえ、うちはサスケに悪い印象をナルトは持っていなかった。それを裏切ったとはいえ、この年齢の子供が躊躇いもなく仲間だった存在を殺すという。忍としては上出来だろうが、子供としては悲しい程に物事の分別がつきすぎている。
或いは肉親の情をくれた三代目火影の事を敬わず、あろうことか仇につくというナルトにとっての侮辱から来る怒りでサスケへの情を捨て去ってしまったのだろうか。



綱手には解らない・・・解らないからこそ悲しかった。



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