焔と渦巻く忍法帖 第十六話

「・・・彼女を許せ・・・?はぁ?・・・そんなことよくも言えるってばね、俺が許す訳じゃねーのに・・・」
「・・・えっ・・・ひぁっ!?」
何も写さない瞳。確かにイオンを見ているはずなのに、ナルトの目には何も点っていない。感情を表さない無の視線に底知れぬ物を感じたイオンは悲鳴に近い声を小さくあげる。
「俺やルークが許せばこいつの罪が消える、なんて事はねーってばよ。寧ろ許しを請うのはダアトとマルクトの人間だろ?」
「・・・何故ダアトとマルクトなんだよ、ナルト・・・?」
そのフェミ男スパッツの余計な身内びいきな言葉に、ナルトの殺気が部屋いっぱいに溢れ出す。その様子に全員が萎縮し、言葉を無くす。
「理由も考えない、答えを苦労もしないで聞こうとする。そんなんでよく人の擁護なんて立場に立てるってばね?」
シンクとサフィールだけは対象になっていないからよくその光景を冷静に見る事が出来る。だが殺気に多少あてられている二人も引き気味に顔を引き攣らせている。被害がないと確約されている二人でそれなのだ。同情心は二人に浮かばないが、その脅威は二人にも安々と想像出来る程顔がおののいているのがわかる。
その脅威の源のナルトの口から、感情が伴われていない言葉が一同に小さい声量ながらはっきり届く。



「面倒だけど教えてやるってばよ。ダアトに謝らなきゃいけない理由は大きく二つ。まずは導師を裏切っていた事、これは本当にダアトで公にしたら組織を揺るがす事になるってば。何しろトップを蔑ろにした行動を二番目の地位にいる人間が犯してんだから。それが今この場で明らかになった。普通こういう事になったら査問にかけるってばよね、イオン?大詠師と手先の人物に対して、厳しい罰則を与えるのがトップとしての役割じゃないのかってば?」
「・・・ですが、それは・・・アニスにも事情があったのですから・・・」
それでも尚、痛々しげに殺気に耐えながらイオンは擁護につく。だがナルトはトップの自覚がないイオンに続きを述べていく。
「第二にこの借金の金が教団の運営資金で払われてる事だってばよ」
「・・・え?」
借用書をヒラヒラちらつかせながら、ナルトはコウモリ娘を片方の手で指を指す。
「こいつの親がどんだけ馬鹿な程人がいいのか知らない。けどこんな借金は宗教団体っていう資金が集まりやすい環境でも安いなんて言えるもんじゃないってば・・・シンク。兵士の給与、大詠師の給与と見て比べて一個人で払えると思う?参謀総長って地位にいるから、ある程度予測つくんじゃないかってば」
「払える訳ないね。僕らは神託の盾として給与はもらうけど、それは教団の運営資金から賄われている。大詠師クラスまで出世しても所詮宗教団体なんだ。大半は教団の運営の為に資金は使われるから、せいぜい一般人より相当上程度の給与しか渡されないよ。間違ってもこんな大金を出せる程、あいつに資産はない」
「そう。それに別に教団の資金を横領した疑惑がある。それはあの封印術、アンチフォンスロット。確か国家資産の十分の一程だったっけ、作製費用?そんなもんが普通兵士をまとめる立場のあの髭親父が資金を引っ張って来れるかってば?所詮兵士をまとめるだけの立場じゃ国家資産の十分の一なんて無理だってば。なら誰かパトロンが必要になる・・・それはあの惑星屑、だってばよね?サフィール」
「えぇ、封印術は私が作った物です。資金繰りはあれに任せていましたから、間違いありませんよ」
サフィールが認めた事により、イオンとコウモリ娘を取り巻く空気が緊張感をより強くする。
「わかるってばよね?封印術と、この借金。個人じゃ絶対に支払える代物じゃない。しかも二つとも個人的な使い道。封印術はイオンの譜術を封じる為、借金は自らの手駒を手に入れる為。封印術に関してはこいつには関係ない事だけど、借金は確実にこいつとその両親も片棒担いでんだってば。資金の出所がどこか知ってなくてもな。これはイオンが許すで許される問題じゃないってばよ、だって教団の膿って言える不正を見つけてるんだ。俺達が許すで終わらせる問題じゃない、ダアト全体が許容出来るかって事なんだよ。この問題は。それを見つけてるのに何も考えずに許す?無責任、無謀極まりないってばよ」
ここまで説いてようやく浅はかさに気付いたのか、何も言えず顔を下げて押し黙る一同。特にイオンとコウモリ娘に関して言えば発狂しそうな程体を震わせ、唇を高速で上下にカタカタと歯音つきで動かしている・・・だがこの程度で終わるような程、ナルトは話をした訳ではない。






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