焔と渦巻く忍法帖 第十六話

だがそんな困惑など素知らぬ顔で、責めの手を任されたナルトはコウモリ娘の前に立ち腰を落とすと、まだ悶絶しているその歪んだ顔のあごを掴む。
「言い訳があるならいくらでも考えていいってばよ、のたうちまわってる内に。けど事実目にしてる俺らが納得出来ないんなら、言い訳分の時間の代償にそれなりの罰与えるから」
俺を説き伏せてくれるなら寛大にしてやる。だがそうでないなら・・・含みが多大に入った自信に溢れた言葉に、あれほど痛みで歪み続けた顔が一瞬で恐怖におののき固まる。
「後5分以内で回復しろってばよ?それくらいには普通に喋れるように加減してやってんだから」
そう言い放つと、ナルトはまた立ち上がりゆっくり扉にもたれ掛かる。その瞬間シンクとサフィールを除き、緊張感溢れる無言の5分間が刻々と流れていく。そんななかでナルトだけはうっすら笑みを浮かべ続けた、コウモリ娘が苦しさも忘れたように視線をちょろちょろ一点を見定める事なく思考をまとめようとしている様子に・・・






そして誰も喋る事のない無言の5分が過ぎ去った。
「はい、5分経過。言い訳?いや、御託を早く並べて見ろよ。どっちがどっちでも答えなきゃ考えにも言葉にも価値は出ないんだから」
計り切ったようにピッタリ5分ちょうどにナルトの声が部屋に響き渡る。だが先程とは違い、手元からクナイが現れ言葉と同時にそれをコウモリ娘へ向ける。その行動に諦めがついたのか、コウモリ娘は立ち上がり俯きながら喋り出した。
「・・・私がモースに協力していたのは間違いないよ。けど、仕方ないじゃん!ちゃんとイオン様の動き伝えないとパパにママを殺すっていうんだから!」
「・・・人質?」
予想していた通りの答えにナルトは辟易としながら、同時に苛立ちが募る。



忍の世界でもスパイ、言葉を変えれば獅子心中の虫の存在はいないことはない。寧ろ獅子に群がろうと、多数の虫がその領域に踏み込もうとしてくる。だがそういった虫を退治というか、駆除してきたナルトはその人物達を嫌悪感で見る事はほとんどなかった。入り込むスパイ達を見つけ口を割らせれば、大体の確率で返って来たのは里や自らの心酔する人物の為だとか任務故との答えだった。

仕方無しだから、コウモリ娘みたいに自らの事情を押し出し助けてくれなどと言い出す輩などナルトの前に現れた事はなかった。虚空という暗部上で、暗部か上忍クラス以下の人間と相対することの少ないナルト。上忍クラス以上ともなれば生死は常に隣にある、そのような人間達が覚悟を決めずに任務に着くはずがない。だからこそ見苦しい態度を取るような相手はいなかったし、ナルトも潔さに敬意を持って敵を殺していった。

個人的事情を全面に押し出し同情してくれなど忍として、虚空として存在しているナルトからすれば下忍以下の存在であり、兵士として存在を疑う物。わかってはいた反応だったが、目にして見ればそれは醜悪以外の何者でもなかった。



「・・・あんたらはパパとママを知らないから言うけど、あたしの両親はお人よしでよく悪い人からカモにされてた。パパ達にむやみに人を信じるのは止めてって何度も言った!・・・けど、パパ達にあたしの言葉は届かなくて気付いたらもう借金が返せない程膨らんでて・・・あたしは借金があるって気付かないパパ達の代わりにどうにか返済しようとしてた。そんな時にモースが借金を返してやるから、私の為に働けって・・・」
悲劇のヒロイン。そう見えるように言葉尻がすぼみ、何も言わなくなるコウモリを見てナルトはそう思う。だがヒロインの後ろに‘気取り’という付属がつくのがナルトの正直正しい感想だ。
「許せませんわ!いたいけな少女にそのような事を命じるなど!」
「あぁ、酷いことを・・・」
コウモリ娘の話に憤慨した様子を見せる二人。猪思考姫は激しく、フェミ男スパッツは静かに。修頭胸はどう感情を高ぶらせていいかわからず、複雑に悩む様子を見せている。眼鏡狸は大して変わった変化は見せていない。
「・・・ナルト、彼女を、アニスを許してくれませんか?」
更にイオンがコウモリ娘のやった事を許してくれという。だがその意味と新たに告げられた言葉が何事か、その意味を理解どころかスルーしきっている。悲しげな顔だけ、言葉面だけ取り上げている。予想に違わずの結果ではあるが、それゆえにナルトに尚苛立ちが募る。






・・・いや、もうナルトは我慢という行動を表情から消し去っていた。







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