焔と渦巻く忍法帖 第十六話

そんな縋るような視線に更に追い打ちをかけるべく、ルークはまた手元の紙束の中から一つパラッと無造作に紙を抜き取り、女性陣に見せ付ける。
「こーれなーんだ?」
パッと顔の前に現れた紙に、猪思考姫と修頭胸の顔が訳が分からないと、渋々文章を上から読み出している。だが何かに気付いたようにはっとしたコウモリ娘は一転、まさに鬼気迫るといった様子でとっさにその紙を奪おうと勢いよく手を出す。
だがそんなやけっぱちの行動が二人の前で許されるはずがなく、他の面々が気付いた時にはナルトの手がコウモリ娘の手を一瞬で掴みあげていた。
「はい、残念。大詠師に協力してるって証拠、消せなくって悔しいってば?」
言葉と同時にナルトは腕を捻りあげ、その勢いのまま地面に叩きつけるように投げる。
「っ~~~~~~っ!」
声無き悲鳴、背中から受け身も取れず投げられたコウモリ娘は全身の酸素を肺からことごとく追い出され必死に息を吸い込もうとする。だがその痛々しいもがきは話を止める抑止力ではなく、促進するための材料にしかならない。
「これを見ろ。こいつがあの惑星屑の手先になってる理由だ・・・この書類は借金の手形証明、そしてここに示してあるオリバー・タトリンって名前がある。名字から察するに、こいつの父親だろう。そんな借金してますって証とともに、この部分に書かれてる金額見てみろ。とてもじゃねーがまともに働いてすぐに返せる見込みのある金額じゃねーぞ」
ルークが指差す数字の欄を見て一同が驚きを隠せず、目を大きくする。そこにある金額はバチカルの闘技場に何回通っても一朝一夕に稼げるような金額ではない。下手に闘技場に通い詰めれば逆に賞金を出せなくなり、闘技場が潰れるとまでは行かなくとも賞金の減額が決まる事は確実。闘技場上級ランクでいつも戦っていたルークが見て、そう思えるくらいなのだ。
「こんな金気軽に無担保でぽんと貸してくれるような金融機関なんてねーよ。何に使ったかしらねーが、明らかに桁が違う。金融機関からすれば一中流家庭に貸す金額じゃない、返せる見込みなんて立たないってなるぞ。そんな奴らに金を貸すなんて、慈善事業で行うイカレヤローいるわけないだろ」
当たり前の事だが巨額の借金をしている人間の借金を無償で立て替える人間などどの世界に行っても何処にもいない。それが趣味だなんて言う人間がいたら、それは単なる異常者か相当な馬鹿だ。普通そういった時、何らかの形で代償を求めるのが人だ。
「んな慈善事業あの惑星屑がやる訳ねー。大体やってるなら借用書は出てこねー。んなら何がある?この借用書はどういった効果がある?答えは簡単、借金によるゆすりで借金減らすから手先になれ、だ。普通に働いて返すより早いっていう魅惑的な響きがついてくる。それ受け入れたからイオンや死体漁りの進行の報告入れてたんだろ?惑星屑のスパイになって」
この問いにしんと辺りが静まり返る。だが聞こえるのはまだ空気を取り込みきれずもがくコウモリ娘は苦しそうな息、見えるのはつられて苦しそうな顔。しかしこれだけ情報が揃い、コウモリ娘の回復待ちだけという時間。こんな無駄があるのはもったいない。そう思ったルークはナルトに視線を向ける。ナルトも視線に気付くとルークからの久しぶりの読唇術でのメッセージが目に入る。



・・・数瞬の間送られたルークからの声無き言葉。ナルトは送られた意図をしっかり理解し、シンクとサフィールが二人のやり取りに気付く中ナルトは首を縦に小さく振る。その瞬間ルークはナルトの横まで動くと、持っていた書類を手渡す。
「ちょっと出て来る。少ししたら戻るからそれまでナルト、頼む」
「はいよ~」
いきなりの退出にコウモリ娘に行っていた視線がルークに注がれる。だが外に出るという意図が掴めない一行はルークを止める事も考える事で忘れ、何事もなく出て行ったルークを呼ぶ事も出来なかった。









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