焔と渦巻く忍法帖 第十六話

影分身に抱えられたまま自称正論者共を引き連れ海を越え、山を越えたルーク達は一日半程も全力疾走したところでダアトに辿り着いた。






「・・・嘘・・・」
「あまりにも早過ぎるわ・・・」
ダアトの街の入口、影分身の兵士達が消えてルーク達だけになった状況でその進行速度のあまりの早さにコウモリ娘と修頭胸が呆然としながら呟く。
「・・・朱炎達は誰に会いに来たんですか?」
同じくダアト所属のイオンが早さに驚きを隠せない様子でその目的を問う。
「まぁ会えば分かるって言っときたい所だけど、一触即発って雰囲気作られんのも面倒だから先に言うぞ。会いに来たのはシンクとディストとアリエッタだ」
「えっ・・・!?」
「なっ、なんであんたがその三人に会いにここに来んのよ!?」
三人の名前にイオンが驚き、コウモリ娘の荒く教えろと威勢のいい声が響く。
「なんでって理由があるから来てんだよ。つーか大声だすな、目立った動き見せたらテメェの大事な大事な大詠師様に今ダアトに何故か導師がいるって連絡が行くぞ。せっかくまだアクゼリュスにいるって思ってもらってんだ。長居する気は更々ねぇけど、迂闊に情報漏らしたら即座に死体に変えるぞ」
前を向き、話し終わったと言わんばかりのルークとナルトの先を歩く姿にコウモリ娘だけでなく他の面々も口をつぐんで黙ってルーク達の後をすごすごと追っていく。
ルークの脅しも効果はあるが、ここで問答をスラスラ目立つ街の入口で答えては悪目立ちすること間違いない。ましてやそれがダアト所属の人間がよそ者を今ダアトに戻って来た導師とともにいきり立って攻める場面など、話題の目としては事欠かないだろう。
ルーク達は後者を考えていたが、後者の考えに後ろの面々が気付いているとは考えにくい。気付くかどうかではなく気付いてないを前提としてルーク達は前者を圧した。その効果は絶大だった。






黙った様子が続く後ろの面々を全く一瞥することなく、ルーク達は教団の象徴とも言える建物の中に入り迷う事なく入口から見て左手の方向にある扉の方へと向かう。そしてためらいなくその扉を開け、見覚えのある浮遊椅子に座った後ろ姿の元へと向かう。様子から察すると、この図書館とも言える程の部屋の中で何か本を探しているのだろう。その後ろ姿にルークとナルトは喜色を浮かべ、気楽に声をかける。
「「よっ、サフィール!」」
「ヒッ!・・・なんだ、あなたたちですか。お久しぶりですね、二人とも」
いきなりかけられた声にサフィールはビクッとしながら慌てて振り返る。だがルークとナルトと認識すると、サフィールは落ち着きを取り戻し手に持っていた本をひざ元に置く。だが後ろの面々を確認すると、サフィールは軽い驚きに目を開く。
「・・・何故二人はジェイド達を引き連れてここに来たのですか?それにアッシュまで・・・」
「ははっ。大分言うようになったな、サフィール。すげぇ毒が含まれてんぜ」
隠しもしない嫌悪感が現れた口調に、ルークは爽やかな笑みを向ける。ナルトも以前のセントビナーでの口調と今の口調を比べてうれしそうな笑みを浮かべる。前は落ち着きがなく、ちょっと突けばキィキィ騒ぐと言ったイメージが十割を占めていた。しかし今のサフィールを見れば冷ややかな視線で、芯が出来たようにブレる事なく眼鏡狸達を見ている。
「・・・鼻垂れが随分無理をしていますねぇ、分不相応な事をするとまた鼻が垂れますよ?」
「ご忠告ありがとうございます。ですがいらぬお節介ですよ、鼻が垂れれば拭きますし貴方自身にはまったく関係ない事です。見苦しければ私を見なければいいだけの事だ・・・違いますか?」
雰囲気ががらりと変わったサフィールに、眼鏡狸が嫌味を存分に含ませた言葉を挟んでくる。だがサフィールはその嫌味にカッカすることなく平坦な口調と真っ当な正論を持って返す。その視線にも意味のない嫌味に対しての呆れがこもり、眼鏡狸は何も言い返す事が出来ず目を逸らす。






執着という憑き物が落ちればここまで人は変われるのか、もしくはこれが本来の姿であったのか。どちらかは定かではないが、この振り切り方を眼鏡狸に存分に見せ付けたサフィールを見て、ルーク達は満足感でいっぱいだった。







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