焔と渦巻く忍法帖 第十五話

「ん、やっぱその姿が普通だってばね。ルークは」
「だな。久しぶりに袖通すけど、こっちがしっくりくるわ」
ルークとナルトが朗らかに笑いあうその姿に、一同は呆気に取られポカンとする。
「・・・あぁ、忘れてた。これからはナルト以外は俺の事は朱炎って呼べよ?‘ルーク・フォン・ファブレ’はもうそっちの本物がもらってんだ。ホントなら今の名字で呼んでもらうべきだろうけど、テメェらにじいさんの名字を呼ばせる気はねぇからな。裏の通り名でこれからは呼べ」
「名字?どういう事だよ、お前はファブレ以外の親がいるっていうのか?」
フェミ男スパッツの苛立ちを口調から感じ取れる質問、しかし対照的にルークは口角を吊り上げナルトの肩を抱きながら答える。



「改めて名乗ってやる。俺の真名は‘猿飛ルーク’、ナルトが住む木の葉の里で長だった三代目火影に猿飛の名をもらった木の葉の住民だ」



シン、とルークの宣言に辺りが静まり返る。察するに木の葉の発言に理解をしきれていないというのが表情から理解出来る。だが肩を抱かれたナルトはそんな雰囲気とはお構いなしに上機嫌にルークの肩を逆に抱き、頬と頬が引っ付くようなほとんど接触間近の形で話し出す。
「という訳でもうお前らはルークを名前で呼ぶんじゃないってばよ。でもまあ朱炎って名前を呼べるだけでもありがたいって思えよ?里じゃその名前はNo.2の強さを持つ人物の隠し名なんだから」
その表情にはより一層親密さが先程より強くなり、はっきりと告げている。‘お前達には絶対にここに来させる気はないし来る事は出来ない’、とナルトの瞳が冷たく語っていた。
「No.1がなーに言ってんだよ、ナルト」
そしてルークがナルトに向ける瞳は皮肉そうに細めていながらも、その奥は優しい明かりに満ちている。デオ峠から、いや初めて会った時から向けられる事のなかった瞳に一同は戦慄を覚えて震え上がる。



・・・一同が今まで旅をしていた時に、共に過ごして来た時にここまで優しい瞳などなかった。いや、正確には皮肉げな笑みですら稀有なものと言えた。いつも見ていた表情は眉間にシワを寄せた不機嫌な表情、もしくは興味ない玩具を見るような冷めた平坦な表情の二つくらいだった。そして先程までに見せていた血も凍り付くような殺気をつけての何も感情を読み取れない無表情そのものの顔。

だが今見せている表情は彼の本心が盛大に表れている。ナルトに向けている物は対等な人物に向けている物だが、今までの自分に向けられた表情を思い返した一同は明らかに格下もしくはそれ以下に見た物を見る目として見られていたと自覚した。そしてそれはルークの本心をわずかながらでも知ったからこそ戦慄した。

‘自分に向けられた殺意は嘘ではない、その気になれば本当に殺されてもおかしくはない’

こうやって今生きているのはなんだかんだで自分達が必要だからこそ、脅しで済んでいたのだと勝手に解釈していた一同。だからこそルークの笑顔は偽りではないとナルトに見せた物が、恐怖という感情を呼び込んだ。




ナルトの瞳はその震えを見逃さない。
「どうでもいいってばよ。ただもうここにいる奴じゃルークの事をルークって言っていいのは俺だけだってばよね?ルーク?」
その深い笑みを浮かべた質問にピンと来たルークは、意地悪げに浅く笑みを浮かべ返す。
「そうだぜ?ルークって名前はこいつらからすれば、ファブレのもんなんだ。呼ばせる気はないし、呼ぶ気もねぇだろこいつらは」
「ル・・・」
「朱炎だよ、俺は。俺が引き連れるのは大人しくちゃんと付いてくる奴だけだ。ファブレに関係する名前を軽々しく口にして、ファブレ子息の気分を害するなら容赦はしないけどな」
フェミ男スパッツの伸ばされて来た手を一蹴するように、ルーク発言禁止を言い渡す。伸びた手がその発言と共にそっと落ちていく。諦めを宿した顔を見たナルトは優越感を覚えながら鼻でフェミ男スパッツをせせら笑った。






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