焔と渦巻く忍法帖 第十五話

そもそもなにもかもが中途半端なのだ、この煙デコは。誘拐されたのか合意の上でダアトに行ったのかなどどうでもいい。ただ聞けば聞く程に『ルーク』にも『アッシュ』にも未練に満ちた発言がどんどんと飛び出してくる。どちらとも名前を欲しがるなど、身の程知らずにも際限がない。

日の下に光に麗らかに居続けられるだけというのは、人生にはありえない事だ。日だまりは下手をすれば火傷の元になる。それこそ身を滅ぼさんばかりの業火の下に焼かれるかもしれないのに、それを煙デコは理解していない。

人生を決めるのは自分自身、日だまりの環境を整えるのも自分自身だ。王族、いや現在では元王族の反逆者というべきか。その事実だけでもキムラスカに白日の下に晒せば、煙デコは一瞬でその存在を認識することすら許されなくなる。更に自国軍港を襲撃という罪がキムラスカ内にはルークのおかげでファブレ公爵を始めとする人員に広く知れ渡った。

ルーク達が突き付けたのは『アッシュ』に当たっている日だまりの危険、というより事実を元にしたれっきとした脅迫である。今『ルーク』に戻らなければマルクトに売り飛ばす、『アッシュ』の名の日だまりまで欲しがるようであれば情け容赦など一切しないと。







・・・日だまりは既に一つはルーク達により役割を決められ消滅寸前、そして空いている日だまりは強制的な物ではあるが安全が保証された物。全てを知り、逃れる術もない。だが全てを欲しがる中途半端な煙デコが命を失う事を惜しむ事は当然であった。



「・・・は、・・・だ」
「ん?」
小さく細く放たれた言葉にルーク達は内容を聞き取れてはいたが、周りにはっきり示す為にもわざとらしく言えよと疑問符つきの声を満面の笑みとともに煙デコに突き付ける。
「・・・俺は、ルーク・フォン・ファブレだ!アッシュじゃねぇ!」
はっきりとした『アッシュ』との決別宣言がブリッジの中に響き渡った。その声に猪思考姫は憑き物を落としきったように顔を晴れやかにした。何故だろうか、罪自体は消えるはずもないのにルーク達は許す気も微塵もないというのに。
だが反対に表情を一気に暗く落としたのはフェミ男スパッツだ。テンションを低くする理由など知ったものではないが、その顔はルーク宣言にはっきりと難色を示している。
そのほかは大きな反応は示さなかったが、反対ではないと反論を口に出さない事からわかる。
そして当のルーク達は当然分かりきっていた事なので、笑みをより一層強めて二人は互いに煙デコの両隣につき肩に手をかける。
「おめでとう、ルーク・フォン・ファブレに戻る事が出来て」
「けどこれでもうアッシュには戻れない、そしてルークに恨みをぶつける必要は無くなったからもう怒りを向けるなってばよ」
「ん?そういやコイツがファブレに戻るなら俺はコイツらにルークって呼ばれる理由なくねぇか?つーかむしろもうルークと呼ばれたい気持ちすらない」
「ならもうその服着替えて来ればいいんじゃないかってば。こっちで着る服なんていらないんだし、ついでにファブレの名前を返上って意味で」
「・・・ん、そうすっかぁ」
途中から雑談に変わっていった二人の会話の中ルークがさりげに名前を呼ばれたくないと毒を混ぜ、ナルトが含みを入れた視線を向けて着替えて来いとルークに勧める。ルークもその視線に気付き煙デコから手を離して入口に向かう。
「適当に時間潰しといてくれよ、ナルト」
「はいはい~」
ヒラヒラと振られる後ろ向きのルークの手に、ナルトも手を振りルークを笑顔で見送る。扉が開きルークが出て行きその扉が閉じると、満面の笑みになっていたナルトに視線が集中する形になっていた。









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