焔と渦巻く忍法帖 第十五話

「そう、戻りたかったんだ。へー・・・なら居場所、空けてやるよ」
「何?」
「戻りたいんだろ?だから‘ルーク・フォン・ファブレ’って場所、空白にしてやっから戻っていいぞ」
「・・・どういうつもりだ、テメェ・・・」
ルークの意図を理解できない煙デコと周りの目は疑問に満ちている。何しろあっさり告げられたその言葉は・・・



「俺にはもうファブレの名前はいらねぇ。だからいるなら戻っていいって言ってんだよ」



分かるか?と頭を指でトントンと叩くその仕草。だがそんな仕草に気を払えるような余裕は見えない。何しろ宣言されたのはファブレという名が不要、いるなら勝手にしろという放出宣言なのだから。
「・・・っふざけるなぁっ!屑がぁっ!」
「ふざける?ふざけてなんかいねぇよ。俺はいらないんだよ、もうファブレの名前はな。ま、ルークって名前はもう変える気もないし、俺が本当に故国にする気のある場所じゃルークで通ってるから今更変えるのもめんどくさいし。まぁそこは同じ名前程度に思っとけよ」
喉を押さえながら精一杯叫ぶ煙デコにルークという名を使うのは別に構わねぇだろと普通の声量で返す。
「ファブレの名がいらないだと・・・!?俺がどれだけテメェのいた場所に戻りたかったと思ってやがる!」
「しらねぇ、興味ねぇ。そして俺はいらねぇ、ファブレの名は。だから戻りたいなら戻れ、そう言ってるだけだよ。つーかうぜえ。戻るのか戻らねぇのか、どっちを選ぶんだよ?結局」
「戻れねぇっつっただろうが!俺はアッシュだ!」



「アッシュ?そんな名前を名乗り続けるなら俺は遠慮なくマルクトにそこに転がってる二人と一緒に売り飛ばす」



平行線になるかと思われる会話にルークの冷たい楔となる声が響き渡る。ピタッと楔が功を奏し、煙デコは声を止める。
「俺はもう二度とファブレの名前は名乗らねぇ。そんな俺はナルトと一緒に協力をしてくれるであろう、マルクトに行く事を決定させている。ま、協力っていうのはアクゼリュス崩落っつー事実と預言を突き付けて見返りに色々してもらうって事だがな」
「マルクトに・・・?」
「そうだよ、死体漁り。タルタロスを襲ってマルクト兵士を皆殺しにして、タルタロスを奪ったのって誰だったか覚えてるだろ?目撃者に下手人ども」
「・・・っ!」
「わかるだろ?そこにいるのは犯人、そして首謀者の正体を知る奴らだ。タルタロスごと引き渡せば無下に俺らの言葉は扱われなくなるぜ、マルクトは。けど俺はアッシュだって名乗るような奴をルーク・フォン・ファブレだなんて庇い立てする気はねぇ」
「ア・・・ルークは本物のルークですわよ!タルタロスを襲ったのだって仕方がなかった事かもしれませんわ!」
猪思考姫がルークの言葉に発言の意味を考えもしない弁護の口を挟んでくる。だが復活開口一番、短慮極まりない声にルークの代わりにナルトが苛立ちながら口を出す。
「仕方がない、って言葉に人を守る意味なんてないっていうの知らないのかってば?特に立場が高い人間程通用しない。本物だからなんだってば、ルーク・フォン・ファブレがマルクトの兵を殺したっていう事実には変わりはない。それが何を示すのか、それはマルクトの民の命なんか知った事じゃないってゴミ以下の扱いをしてるって事だってばよ。仕方がないから殺した?じゃあ聞くけど、本物さん。本物さんはマルクト兵士に自ら切り掛かって殺してった?あぁ聞くまでもないってばね、だってそこの眼鏡狸を殺せってあっさり断言したんだし。リグレットが止めてなかったらマルクトの民を殺してたんだしね、自分の指示で。ねぇ本物さん?忘れてないってばねぇ?」
「・・・」
途端に目の前に現れたナルトからの上目遣いの笑顔に煙デコは気まずそうに目をそらす。否定の言葉が出ない、というより出させない。ナルトは殺意という名の圧迫感を笑顔に混ぜ、言葉自体圧迫感により出させないように押し潰した。結果は沈黙、更にごまかせず不機嫌に首を振った事で信憑性も強くなった。猪思考姫の顔も少し青くなっている。
「鮮血のアッシュ、その名前はキムラスカとマルクトじゃ完璧な悪人だってば。それでも名乗り続けるなら俺らはマルクトにお前を売る、それが嫌なら」
「ルーク・フォン・ファブレに戻るのが利口だ。幸いにも名前は空いてるんだしなぁ?」
そうだろう?と告げるルークの顔には勝ち誇ったような見下し感がありありと現れている。二択にしてはいるが、メリットとデメリットの差があまりにも激しい。更にはどっちつかずな煙デコの心の安定の無さではあるが、ファブレの名へのこだわり方。出て来るであろう答えはあっさり予想できるだけに、ルーク達は答えを待つまでもなかった。




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