焔と渦巻く忍法帖 第十五話

「全て・・・知ってやがったっていうのか・・・テメェは・・・!」
「そうだよ。よく理解出来たな、偉い偉い」
パチパチパチパチー、と心無い拍手をルークは敵意しか見せていない煙デコに送る。だがその行動にまた身の程を弁えずにルークの胸倉を掴んでくる。
「この屑が!俺を侮辱してやがるのか!?」
「侮辱?んな事しねぇよ。ただ見下してるだけだ」
「劣化レプリカ風情が!俺をなめてんじゃねぇ!」
「うるせぇ、劣化レプリカにすら劣る塵オリジナル」
「なっ!?」
「劣化ってのは元の状態から比べて欠損した状態の事を言うんだよ。その欠損した物に足元にすら及ばねぇんだ。塵、いや埃以下だろオリジナル様」
「・・・この屑がぁぁぁっ!・・・っふあぅ!?」
言い争いにすらならないルークの優勢に、煙デコが再び無謀に殴り掛かろうとする。だがその瞬間にルークの指が煙デコの首に食い込み、苦痛に満ちた声が室内に響く。
「なんでお前はそんなに俺に敵愾心を見せやがる?俺が転がしてる髭に居場所は既に奪われたってでも言われたからか?一々喧嘩腰にならずに言え。じゃねぇと首を振ってしか質問に答えられねぇ体にすんぞ」
誰もが凍り付く闇、死を匂わせる深さを眼に宿らせルークは煙デコの目を見ながら首をパッと手放す。
「どうなんだ?」
「・・・そうだ」
ようやく逆らう事の無為に気付かされたようで、声のトーンも多少落ちて落ち着いた状態で煙デコは喋る。だが眼にはまだ力が残っていて、喉に手をやりながらも今にも襲い掛からんばかりだ。



「俺が戻るべきあの場所・・・あの家にテメェが送られた時から全部変わった!本来なら俺があそこにいるべきだったんだ!それをテメェが奪いやがった!」
「言っとくけど、俺がファブレの家に行ったのは俺の意志じゃねぇ。そこの老け髭が俺を作ってファブレに行かせるようにしたからだ。恨まれる筋合いは俺自体にはかけらもないぞ」
「うるせぇ!俺は戻ろうと何度も思った!その度にヴァンに何度も言われた!ファブレにはレプリカがいる、お前の居場所はあそこにはないとな!」
まさかそんな稚拙な話を真に受け、居場所を奪われたなどとほざくのだろうか。いや正確には幼かったまま成長していないといった方がいいのだろう。でなければ少し成長していればすぐにバチカルに戻れると気付くはずだ。
「ルーク・・・それでは、こちらの偽者がおられたからバチカルに戻れなかったのですか・・・?」
・・・いや、成長が見られないのはキムラスカ貴族の特徴と言えるかもしれない。今の話を聞いてどこをどうすればそうなるのか、猪思考姫は煙デコに同情的な瞳と声色で本名を呼び、あまつさえルークを忌ま忌ましいと言っているように悪意を見せる。
「その名は捨てた、今の俺はアッシュだ」
その猪思考姫にまた今度も矛盾を持った返事を返す。だが流石にその矛盾を無視出来る程、ルーク達は寛容ではない。
「お前は結局戻りてぇのか?戻りたくないのか?どっちなんだ?はっきりどっちかで言えよ、余計な言葉を挟むんじゃねーぞ」
奪われた、だが自分はアッシュだ。怨恨と決意は相入れない、というより対極に位置するものだ。怨恨から産まれた決意は決意とは呼ばない、それは諦めや復讐といったマイナスイメージになる。決意は覚悟を決めて未練を断ち切る未来への向上の意、前向きに行こうというプラスイメージだ。しかし感じられる物はどっちつかずで、どっちか一つだけを選びもう片方は棄てなければいけない事を惜しんですらいるように思えてしまう。
中途半端極まりない、どっちか選べ。そう言いたくなる二人の苛立ちはこの質問に強く、強く現れていて視線にも殺意が込められていた。



「・・・今更、戻れる訳がねぇだろうが」
ようやく搾り出て来た言葉は遠回しな戻りたいとの言葉。だがプライドと死、どちらを選ぶかという選択に苦汁を舐めたような顔をしている。だがルーク達にはそれが本音なのかどうかはどうでもよかった。







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