焔と渦巻く忍法帖 第十四話

・・・実際、猪思考姫がもう少しマシであったなら後継ぎの問題もたいした問題ではない。

民から見ればあまり褒められた事ではないが婚前交渉、婚約しているのだからそういう行動を予め先に行っていたと言えばキムラスカの次期王の候補を作れた事になる。本来なら猪思考姫とルークをそうさせて血筋を残そうとキムラスカと惑星屑が計画していた可能性が高い。

王族の血さえ残ればアクゼリュスで亡くなったルークの忘れ形見にその子がなることになり、不貞行為を行った事に怒りを感じる民は忘れ形見がいたことに安堵する事で感情がすりかわってしまう。

惑星屑が計算していた流れが全て上手くいけば戦争の大義名分、預言達成、そしてキムラスカの世継ぎに申し分ない血筋を持った子がバチカルに残る事になっただろう。

だがそれらをことごとく猪思考姫は思い出の中の煙デコへの思慕の念で蹴り倒した。世継ぎの事は予想ではあるが、子は立派に法で産める年齢になっているからキムラスカが後継者問題の事を円滑に進めたいと考えていたならそれとなくそういう行為を勧められていたはずだ。だが遠回しな言い方で本人に伝わる訳もないし、直球で言っても記憶が戻って王に相応しくなったルークとでなければ嫌だと貞操を守ることを頑として譲らなかったであろう。

・・・ルークが自らへの行為を許容する気はないとしても国に従事する姿勢を少しでも見せていれば王女はいらないと言われなかった、いやルークから気付かされる事はなかった。結局は自業自得だ。






その放心しきった状態の猪思考姫から今度はコウモリ娘とイオンを二人は視線を移す。
「そこで魂抜けた猪以外に勝手にここに来たダアトの導師と役立たず護衛、テメェらも微妙な所にいる事は理解してっか?」
「・・・え・・・?僕らも・・・?」
「お前は預言を今初めて知った。だがその預言を公表することは出来ない。預言を明かせばお前は確実にキムラスカに取り込まれる事になるぞ」
「ど・・・どういう事・・・?」
「預言の存在を肯定して戦争を止めて下さいなんて言ってもダアトは所詮第三国だ。マルクトにいくら戦争しないで下さいなんて言ってもキムラスカを止められないなら預言を明かす意味がない。キムラスカに行って預言通りするのは止めてくれなんて言ってもまた預言の後ろ盾を導師からもらうから、軟禁の形を取ってもいいから導師を捕らえてくれと惑星屑に戦争が終わるまでキムラスカに縛り付けられるだろうな。ま、これはお前が戦争を止めたいってどっちかに乗り込んだ場合のシチュエーションだな。そしておまけのお前はキムラスカに行けば黙秘を惑星屑に命じられ逆らえば適当に罰を与えられ強制的に口を塞がれる。マルクトに行った所で何にも出来ないぜ、せいぜいイオンの行動をテメェの上司に報告するくらいしかな」
「・・・え・・・っ!!?」
意味深に語るルークの言葉にコウモリ娘の顔が最初は疑問、そして青ざめた驚きに近く顔が変わる。だがまだはっきりとスパイだと告げている訳ではないので、やたら目が泳いでいる。しかしまだそれをばらす気はないルークは蒼白な表情のイオンに意図的に目を向ける。ナルトはうっすら口元を上げている、いつ告げられるかもわからないというコウモリ娘の動揺と怯えの表情を見ながら。
「お前が説得したって二国の戦争は止まらない。それが現状だ。そこでお前が取れる選択は二つ。一つはダアトに戻り全て終わるまで物言わぬ貝になっておく、もう一つは預言通りにさせないように導師勅命を出してマルクトに味方をする、だ。ただ前者は全てを放棄しただけだと自分で証明し、後者はダアトの中立っていう地位を捨てる事になるし大詠師派と争いになる可能性が高い。つまりお前じゃ何かしらの争いを止める事は出来ない、だが何かを決断しなきゃいけない。それは導師としてどうするかをトップとして迫られ、護衛のお前は一緒に堕ちる事を選択出来るか・・・だ。さぁ微妙な立場のお前らはどうする?」
・・・無言、ではないがあぁ、とかうぅとか言葉にならない声が二人から零れてくる。ベストな選択は何なのか、別の正解はないのか。泣きそうな程、苦悩に顔を歪ませていく。



ここで中途半端に自分でこの状況を覆せるなんて希望を持たせてはいけない。そうでなければ増長してしまうから、ルークとナルトが行おうとしている結末への過程を自らが行った物だと。





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