焔と渦巻く忍法帖 第十四話

「大体よぉ、和平の申し入れってのはキムラスカからじゃなくてマルクトから言い出した事だろ。結んでくれって言ってる立場の人間達が頼まれた側にだけ負担を強いるのもおかしい。仮に普通に俺と一緒にここに来たとして、マルクトからの人員がオッサンだけ。キムラスカは多大な人員を裂いて住民救助に精を出した。これはキムラスカから見ればあまりにも不公平だ。普通そういう場合は頼んだ側が同等、それ以上の数の人間を送り出すのが筋だろ。じゃなけりゃマルクトの方が立場は上、わざわざ和平を結びに来てやったんだからそれくらい当然だと言ってるも同然のようなもんだぞ」
「・・・戦争間近だった二国間で国境をマルクト兵が大量に越えるなど許されるはずがないでしょう」
「だからか?それでマルクトに報告しなくてもいいなんて思ったっつーのか?・・・救いようもねーほど馬鹿だな。和平でもなんでも物事を頼むには本気だと理解させる誠実な姿勢が必要だって理解してねぇ。マルクトだって余程のお前みたいな礼儀知らずじゃなけりゃマルクト兵を少しでもキムラスカ側の街道から送らせて欲しいって要求くらいするぞ。キムラスカがどう出るかはともかくとしても、それが国に対する本気の誠意の証になる。なのにてめぇはそう要求させる手紙を出す事すら怠りやがった。出来る出来ないの基準で全部判断し、誠意を忘れる・・・マルクトの皇帝ってのは損得感情で行為の意味を考えて、無駄な事には何一つも手を下さなくていいってそのガリベンみたいな秀才眼鏡に言ったのか?マルクト皇帝の名を代りた、名代っていう肩書の死体漁りさんよぉ?・・・ま、報告を怠っていた時点で住民受け入れを準備無しでやれって国民に迷惑をかけてたもんなぁ?」
「・・・私は・・・!」



キムラスカがどうでるか知った物ではない、マルクトの和平を受ける気などキムラスカには微塵たりともないから。だがマルクト側から最低限やらなければいけなかった事がルークの上げた本国への対応要請、それすら行われていなかった。その事実はマルクトに住民を手間をかけて受け入れてもらったルーク達からすれば怠惰以外の何物でもない。・・・元々預言に浸りきったこの怠惰な世界自体が嫌いなのだ。ルークにこのような人物達に好意を持たれたいという気持ちなど塵芥一粒もないし、ならばこそ遠慮もない。
ただただ事実をぶつける、否定しようがない現実とともに。名代どころか軍人としてすら任を怠ったと告げられ、それを一つ一つ理解させられた眼鏡狸は唇の端から血が滲み出る程唇を噛み締めて忌まわしそうに自己嫌悪を額にシワを寄せる形で表しながら目をつぶった。
「今頃ようやくわかったか、てめぇがどれだけ和平にとって不適切な人間であったか、誠意ない人間だったかってな」
「・・・」
何も言わない、いや言えない。表情がひたすらに変わらない眼鏡狸にルークはナルトとともに口角をニヤリと高く上げ、愉快だと隠しもせずに笑った。







9/18ページ
スキ