焔と渦巻く忍法帖 第十二話

「おーい、手紙預かってきたぞー」
オアシスの中の休憩所らしき建物に入り、ルークはけだるげに同行者達の所にヒラヒラと手紙を振りながら参上する。
「手紙?一体誰からなんだ?」
「アッシュから」
「え!?」
煙デコの名前を聞き、誰かの驚く声と共に目を細める眼鏡狸以外の全員が目を見開く。そんな驚きの感じなど知った事ではないと、ルークは手紙をただ普通に開けて読み上げていく。
「『俺はイオンとともにザオ遺跡にいる。愚図のおぼっちゃんに来られるかな?』・・・だとよ」
シンプルにして不快、ルークは文章を目にしてそう思っていた。これは明らかに待ち伏せ、もしくは恨みを晴らす為の呼び出しの類でしかない。少なくともこの文章は好意を持ってイオンの居場所を教えているはずがないとすぐに理解が出来る。どう考えてもろくなものではない、ルークはそう思っていた。



「ザオ遺跡!?そこにイオン様が!?」
・・・だが悪意を持っているこの文章にあっさりと乗っかってくるやつが今の同行者達の本性だ。
「おいおい、敵の言葉信じるのか?どうみたって罠だぞ、これ」
ルークはさりげに注意を促す。一応はまだ一行の長という身、虎穴に策無しで入るような行動を取らないようにというのは当然の進言だ。
「何を言っているの?これはイオン様の重要な手掛かりなのよ」
「そうですよぉ~、イオン様はザオ遺跡にいるってわかってるんですから早く行きましょうよぉ」
「そうですわ、わざわざ招待状を送ってきて下さったんですもの。行かない訳には参りませんわ」
「ほら、文句言ってないで行くぞ、ルーク」
「まさか臆病風に吹かれて行きたくないと言ってる訳ではないでしょうねぇ」
・・・だが悪意を好意とまで解釈するのか、五人は五人とも煙デコの言葉をあっさりと信じきったようにルークの言葉を否定する。もしまだこの面々との付き合いが昨日会ったような浅いものなら「馬鹿にすんな!」、とでも言って怒りの仮面を被ってザオ遺跡に行っただろう。だがルークはあくまでも食らいつく。
「だから罠っつってるのは、イオンがザオ遺跡にいるように言っといてわざと俺達をザオ遺跡に行かせるのが目的かもしれねぇんだぞ。実際にザオ遺跡に行ったらイオンがいなくて実はわざと俺らに無駄足踏ませて、アクゼリュス救援を遅らせる為っていう目的だったって可能性もな」
自ら言っておきながらそれだけは絶対にないとはルークはわかっている。あの勘違いっぷりからして、そういった嫌がらせみたいなねちっこい策を考えるはずがない。十中八九イオンを使っての自らのおびき出し、そっちが正しいとルークはわかっている。
「そうなりゃどうなる?結局俺らはアッシュの口車に乗せられてアクゼリュス救援に遅れるなんてのも結末に入る。そしてイオンがもしザオ遺跡にいたとしても場所次第じゃケセドニアにたどり着く時間も大幅に遅れる。そんなんじゃどっちにしろ任務には間に合わない。だったらここでアニスと別れて俺らはケセドニアにまっすぐ向かうほうがいいだろ?」
考えられるマイナスイメージの可能性はあげた。もしまだ何か言ってくるようなら・・・ルークがそう思っていると、同行者達の目は段々と厳しくなっていく。散々媚びを売ってきていたコウモリ娘すらが眼差しを敵意に満ちた目付きをしてきた。
「・・・あなた、最低ね。目の前に和平の重要人物のイオン様がいるってわかってるのに散々言い訳して・・・」
「やれやれ、能書きだけは一人前ですねぇ」
「そうですわ!導師を助ける為の行動がなんの遅れになりましょう!」
「そうだぞ、ルーク。もしイオンがいなくてもその分、歩く速さをあげればいいだろ?」
「・・・ほら~、皆こう言ってるんですから行きましょうよぉ~、ルーク様ぁ~・・・」
修頭胸は心底蔑んだ目、眼鏡狸は嘲りの目、猪思考姫は憤りの目、フェミ男スパッツは呆れを存分に含んだ目、コウモリ娘は引き攣り笑いながらも自分を見下した目。



・・・これだけの悪意を受けたルークの心中にはもう迷いと忍耐の文字は既に消え去っていた。





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