焔と渦巻く忍法帖 第十一話

(・・・え?また誰か来た・・・っていうかあの馬鹿達!?・・・あ、後ろにルークがいる。・・・凄く疲れた表情だね、やけに)
弓を向けられている煙デコの後ろから来る人物達を見て、シンクは自分以外には見えていないであろう光景からルークの表情を見て取った。
(・・・加えてやる気が全くない。まあ分からないでもないけどね)
頭をガシガシ小雨にいらついているように掻きながらこちらにダラッと重くしながら近づいて来る様子に、シンクは手助けくらいはしようと煙デコに声をかける。






「アッシュ、もう行くよ。面倒な奴らが来た」
シンクが煙デコを促す声が辺りに響く。面倒な奴らというシンクの声に確認を取ろうと、煙デコはルーク達の方を振り向く。
「・・・え?ル、ルーク・・・?」
振り向いた顔には同じルークの顔、その顔を間近で見た猪思考姫は番えていた弓を戸惑いの手で下に下ろし、他の面々も言葉に出さないながらも似たように目を丸くして驚いている。ただルークだけは違った。
(さっさと上に昇り切ってしまえ。煙は空高く浮かび上がるのが自然の摂理だろうが、付加効果で平野デコっていうノームの音素の廃棄物同然のゴミの親善大使だから地面に立てれてるだけのくせに)
これだけの悪口雑言を口にすれば間違いなくブチ切れるだろう事を考えながら、ルークはやたら自分だけを注目してくる煙デコを最後尾で冷めた目でシンクを見るついでに見ていた。
「はっ!愚図のお坊ちゃん一行のおでましか!」
「・・・あーあ、だる」
勢いよく自分にかかってくる声に、誰にも聞かれないようボソッと呟く。それと同時にルークは一瞬だけ自らの強い意を持った目をシンクに向ける。ビクッとその視線に反応したシンクはそれがルークからのメッセージだと理解し、あのやる気のないルークの顔からして早くこの場を終わらせてくれと言っていると感じていた。
「・・・アッシュ、今はイオンを連れていくのが先だ。こいつらに構う暇なんてないよ」
「・・・ちっ、命拾いしたな」
ようやく撤退することに頭がいったのか、煙デコはシンクの言葉に嫌々同調の意を示す。それと同時にまたルークから先程より柔らかい視線を送られてきたのをシンクは感じ取った。
だが煙デコにはそのような事に気付けるだけの技量もなく、タルタロスへとイオンを押し込める。そしてそれを見届けたシンクはルークに一瞬だけ視線をやるとタルタロスの中へと入り、それを皮切りにタルタロスは起動してその場を走り去って行った。



・・・さて、問題はまた残った面々。煙デコが消え去ったのはいいが、コウモリ娘に加えて厄介な人物が追加されている。
「・・・ナタリア王女、何故このような場所に?」
大方のやり取りは予想は出来ている、だが一応は聞いてはおこうとルークは猪思考姫に丁寧に質問する。
「・・・あっ、えぇ。私はあなた方に同行するために来たのですわ。ですがなんですか!ルーク!あなたの後を追い掛けて行きましたら廃工場の前の兵士がルークの命令だからと私を通す事を拒みましたのよ!あれは一体どういうつもりですの!」
「・・・火急の用でしたので不確定なものは通してはならないと判断したが故の事です。私は勅命を賜った身ですので、少しでも我々の任に滞りないよう計らったまでの事。陛下にこの任を命じられていない者は、王女といえど通してはいけないと命じたまでです・・・つまりナタリア王女でも私の行動に文句を言われる筋合いはありません」
相手が熱くなればなるほどにルークは平静を装い、静かに答弁する。だがルークの内心は怒りだけで煮え繰り返る程に熱いものであった。
「では何故あなたはアニスと一緒にいるのですか?」
「彼女が一人でポツンとしていたところを話しかけましたら、導師イオンがさらわれたという事を聞いたので私が助太刀をするために彼女と一緒に街を出たのです!」
はい、正解。頭の中でそう思ったルークの予想は寸分違わず当たっていた。
「ですがルーク、あなたは罪になるという理由で導師を探さないとおっしゃいましたわね?」
続いて来た猪思考姫の言葉にルークは若干嫌な汗をかく。
「そのような事でしたら大丈夫です!私が親善大使一行に加われば導師イオンを助ける為に時間を使いましても私の口添えでお父様の許しは得られます!幸いにも導師イオンの行方はタルタロスを追い掛ければよいと分かっているのです!私を連れていけばルークのおっしゃっている問題も導師イオンのことも両方解決ですわ!」
自らの役割は人を助ける為にこそある、そう語っている猪思考姫の顔は大変晴れやかである。だが、ルークはこのおめでたい理論を聞いて呆れるしか出来なかった。





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