焔と渦巻く忍法帖 第十一話

そして廃工場にたどり着いたルーク達に余計な手が加わる事はなかった。だが、一様にパーティーの雰囲気は良くなる事はない。廃工場を探索しきっているルークは他の三人を全く振り返る事なくただひたすら黙々と最短距離を歩いて先に進み、三人はルークの自分達を無視しきっている態度に対し不満を言いたげだがベコベコに反論されてでも口を挟む覚悟までは無いらしく、ただルークの後を追い掛けているという状況が続いている。

だがもうルークにはそんな事は関係なかった。先程からの城での猪思考姫の発言からもうイライラが募っていたルークはさっさと全てを終わらせてしまいたいという気持ちしか頭にはない。この際、別に元々から悪かった仲に更に拍車をかけたとてもう何も変わるでもないとルークは敢えて足並みを合わせようとすることすら思考の片隅から消え去っていた。



だがそんなルークが廃工場の出口にたどり着くと、またもやあの不吉な気配が出口から出た所に余計な者をひとつ付け加えていたのを感じ取った。
(うわ、うわうわ・・・ちょっと待てよおいおい・・・まさかこれって最悪過ぎる展開じゃ・・・)
廃工場の異形の進化を遂げた蜘蛛の魔物を倒し、周りが一息ついているときにルークは瞬間的に顔をしかめる。
(あー、くそ・・・めんどくさがらずにもうちょっとちゃんと対策取ってからくりゃよかったー・・・)
その二つの気配以外にも周りには何個かの気配を感じている。様子から察して、近くにいるのはシンク。そしてイオンと自らの産まれる元となった煙デコ。大方神託の盾がバチカルから撤退したのを見てその後をつけてきたのだろう。
(・・・どうしよっかなー)
もうここまで来たからには幻術でごまかすとか気配に気を使って鉢合わせしないようにこそこそ動き回るとか、そういった一時しのぎの対応を取ってもいずれは別れる身。もうここで何が起こってもガン無視で全て終わらせる方がマシかもしれない、ルークはそう思っていた。
(・・・よし、最悪限界越えたらさっさと行こう)
限界とは勘忍袋の事、正直これは下策以下の何物でもないがそれでもこの現状に対して上策を練るには精神的にルークは疲れ切っていた。そのため、ルークはもうこれでいいと妥協九割でこの下策にすることにした。






外は小雨、そんな中で工場の出口を降りると目の前にはルークが想像していた以上の光景が広がっていた。
「導師イオンを離しなさい!なんですか!仕えるべき方をかどわかすとは!」
弓を番え、賊に対して凛とする姿は絵になる・・・が、そうゆっくりとした目で見れるのは彼女が王女であると知らない者だけだ。
(おい!城を抜け出しておいてやってる事は正義の味方気取りで敵を見つけたらそのまま突っ込むのか?冗談抜きに猪かよ、お前)
後ろを向いている煙デコにいきなり声高々と攻撃せずに名乗りをあげる辺りに、戦いは正々堂々しなければいけないなどといういらん騎士精神が感じられる。それに矢を向けるだけという辺り、一騎打ちを行っても別に構わないと言っているかのように思える。兵法は騙しあい、不意打ち騙し打ちなどなんでもござれだ。それをしないというより、嫌ってすらいるに等しい態度を見る辺りに命を賭けた戦いをしたことがないお嬢様なのだとわかる。そして習い事程度だった故に持て囃されて来たから、下手に戦闘経験豊富な六神将の煙デコにそのように簡単に行けるのだと。
(つーかさ、ちょっと後ろにいるコウモリ。てめぇが本当はあの立場に立たなきゃいけねぇんだぞ)
兵士からすれば自らより偉い立場にある人間は守るべき対象、その理論はイオンと猪思考姫は所属は違えどその場にいた人間はコウモリ娘の護衛対象になる。なのに守るはずのイオンを守る対象の人物に先を取られたというのはもはやこれは役立たず以下の死刑ものだ。
(役にたた・・・うわ、待てよ!・・・っつって止めても無駄か)
絶対に止まる訳はない、自分の後ろから走っていく三人の後ろ姿を見たルークは諦めを心に宿し、足を重くして後を歩いていった。





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