焔と渦巻く忍法帖 第十一話

四人が四人、気まずく顔を歪めているのを見てルークは気持ちを若干ではあるが持ち直す。ここで若干というのは自らの感覚に訴えてくる、厄介な人物がこちらに近づいてきていると感じ取っているからだ。
「さっ、行こうぜ。俺らはアクゼリュスに行かないといけないからここでお別れだ、アニス」
「・・・」
ポンと肩を叩き、昇降機へと向かうルーク。その後を三人は見当違いの同情の視線をコウモリ娘へと向けながら歩いていく。コウモリ娘は余程ショックだったのか、媚びを売る声すら出すこともなく、ルーク達が昇降機で下に降りるまでただ無言で立ち尽くしていた。



「さーて、どうやってバチカルを脱出するかだな」
下層に降りて昇降機の前でルークはバチカル脱出の為の話を小声で開始する。
「なぁ、ルーク。なんでそんなに小声で言うんだよ?」
「あ?言ってただろ?和平妨害派がバチカルから出た中央大海に陣取ってるって。つっても中央大海にいる奴らが全員っては誰も言ってねぇ。もしかしたら街の中に和平妨害派が一般人として紛れてるかもしれねぇ、だから小声で話してんだよ。それにこの場所は丁度辺りを見渡せる。怪しい奴が近づいて来たら話をやめれば少なくても俺達がどうするのかはわからない、そうだろ?」
ここまで言われてようやく密偵の可能性に気付いたのか、はっとした顔つきになる三人。だがルークはそのためだけにこのような事をしているのではない。もしこの会話内容をコウモリ娘や先程の気配の人物に知られたら確実に自分達へとなんだかんだギャアギャア言いながら連れてけと言ってくるのは明らかだ。それに二人に知られなくても、どこかに配置されているキムラスカ兵士に聞かれでもすればもう終わりだ。もう一人の厄介な人物が一声かければ兵士は答えざるを得ない、ルークの行き先を。兵士に一人一人口止めする時間などあるはずもない、そんな事をすれば確実にその人物がルーク達に追い付く暇を与えてしまうのだから。
(これ以上心労を増やしてたまるか!)
そんなルークの心の叫びはさておき、そこにフェミ男スパッツが何かを思い出したかのように顔を上げてきた。
「・・・いい方法がある。すぐそこにある天空客車に乗ろう。旧市街にある工場跡に行けばここから脱出出来る」
「工場跡?わかった」
フェミ男スパッツの声に同調の意志を見せるルーク。実際に誰にも知られる事のないルートはそこくらいしかないと、バチカル探索に暇な時勤しんでいたルークはそれでいいと思ったためである。



そして天空客車に順々に乗って行く面々、ルークは天空客車の前にいた兵士を捕まえて色々話し込んでから天空客車に乗った。



「何を話し込んでいたんですか?」
「あぁ、怪しい奴はこっちに近づけるなってな」
天空客車の中で兵士との会話の中身を聞いてくる眼鏡狸、だが実際に話された内容は物凄い濃い物であった。



「今この俺、ルーク・フォン・ファブレが親善大使としてマルクトのアクゼリュスへと向かう事は知っているか?」
「あ、あなた様がルーク様!?は、はい!存じております!」
「あまり詳しいことは言えないが俺達はバチカルを秘密裏に出ないといけない。で、俺達はここからバチカルを出ようとしているわけなんだが、これは和平妨害の手が入る可能性があるからなんだ。でだ、あんたには一つ頼みとして俺達から後に来る奴は絶対に通すなという事を頼みたい」
「了解しました!」
「いいな?これは陛下から直々に命を賜った俺の言葉、つまりは俺の言葉は陛下の言葉な訳だ。この命を覆せるのは陛下だけ、もし陛下でない誰かが来た場合は陛下の許可をもらった奴だけ通せ。それ以外は絶対に通すな、分かったな?」
「は・・・はい!」



眼鏡狸には一言でしか話していないが、ここまでの会話があったことは事実。これだけ言えばあの兵士も必死で命を守ろうとするだろう。
(実際ここまでしなかったら確実に追い掛けてきたろうな)
いくら内密に行動したと言っても街の中、一人や二人はルーク達を目撃したという証言を誰かから聞きかねない。そう思ったルークは抑止力として兵士に厳命したのだ。
(これで諦めてくれよ)
とはいえ、まだ一抹の不安がある。もうこれでいいだろうと、希望を持つだけに済ませるルークを乗せた天空客車は黙々と工場跡に向かっていった。




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