焔と渦巻く忍法帖 第十一話

「うむ、下がってよい」
「はっ」
そういうとルークは頭を上げて謁見の間を退出しようと歩いて行く、だがやはり猪思考姫は自らも行くと言ってまだ陛下にしつこく食い下がる声がルークが部屋を出ていくまで響いていた。



(あーあ、王として命令してんのになんであんなに命に逆らえるかなー。王女は王よりも下、意見は出せても王の出した結論を覆す事は許されねぇのに)
屋敷に戻り、立つ鳥後を濁さずと言わんばかりに自分にあてがわれたオリジナルの部屋の荷物の整理を簡単に始めながらルークは先程のやり取りを思い出している。
(陛下は預言に死ぬって詠まれてもいない娘を死地に送りたくないから言ってんのに、娘が聞かん坊じゃあ苦労するよなー)
誰も愛する子供を訳もなく殺したいなどと普通は思うはずがない、だが猪思考姫は下手に自らの考えを押し通そうとする辺りに厄介さが入り交じる。それに王族としては致命的な正義に対するこだわりを持っている。もし預言の中身を聞かせて説得したとしても、民の命と自らの婚約者の命を奪わせる訳にはいかないと今もぎゃあぎゃあと口を出すことが簡単に予想できる・・・王族として必要なのはいざという時に大と小を目の前にして大をすぐさまに取れる決断力と時には小を見捨てる非常さ、だから為政者という意味で言えば預言の繁栄を取った陛下達は間違いという意味では間違いではないとルークは思っている。だが猪思考姫は確実に二つを目の前にしてどうしようと右往左往することが簡単に予想できる。そしてあげくの果てには自らの感情に基づいた決断を正しいと結論づけて、判断を下すだろう。この場合はルークを助ける事が正しいと思い込み、堂々と謁見の間で預言をばらす事がルークには想像出来る。そしてそれを予想しているのは陛下達も同様だろう。
(もうちょっと王族らしく教育しとけよ。物分かり悪い子にも程あるし、扱いにくいだろ)
あれは単なる一般人のボランティア感覚で私が手伝えば全部うまくいく、そんな程度の気持ちでアクゼリュス行きに同行すると言っている。ルークは為政者としては最低以下の人物にしかならないと思いながら、ベッド以外ほとんど片付けた部屋を出て行った。



ルークが屋敷を出て、城の前に行くと同行者として命じられたメンバーが視界に入って来た。仕方なしに近付いて行くと、老け髭がこちらに気付いたようで胡散臭い笑みを浮かべて話し掛けてきた。
「おぉ、ルーク」
「無事でしたか?師匠」
表面はやはり上機嫌に老け髭と接するルーク。だが何も会話をする気はないルークは嬉しそうにしながら早く早くと出発を促そうとする。
「なぁ、いつ出発するんだ?俺師匠と旅するの初めてだからすっげー楽しみなんだ!!」
「そのことでさっきまで話し合ってたんだが、ヴァン謡将とは別行動になるぜ。ルーク」
「・・・実は中央大海を神託の盾の船が監視しているようなんです。今海を渡るのは危険なのでヴァン謡将を囮の船に乗せて、我々は陸路でいくことを検討していたんですよ」
「えー!?またヴァン師匠と離れんのかよ!」
ブーイングを浴びせる表面とは裏腹に、ルークは内心喜んでいた。
(よっしゃ!どうせ自分一人先に行ってなんかするんだろうけど、こっちの心労が減るだけ無駄な策略練ってもらった方が何倍もマシだ!どうせ中央大海の船も六神将の船だろ、時間稼ぎのための)
和平に見せかけたアクゼリュス派遣、不敬師匠がそれに遅延するような行動をとるとは思わない。どうせいらん企みだろうとルークは思っていた。



「ルーク。私を信じられないのか?」
「・・・わかったよ」
「では私は港に行く。ティア、ルークを頼むぞ」
エセ師匠面を残し、その場から去って行く老け髭。その後ろ姿を見てルークは心を弾ませていた。



(次に会ったらどんな顔になるかな、恐怖?絶望?驚愕?それとも全く別?どれにしても楽しみだな)



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