焔と渦巻く忍法帖 第十話

このやり場のない気持ちは更に降下していくなか、ルークが扉を開けるとうれしそうに顔を綻ばせる女性がリビングにいた。



「ルーク!」
その女性に名前を呼ばれた瞬間、ルークの中でめんどくささがはっきりと現れていた。
(うわぁ・・・かわすのめんどくせぇ状態だな・・・ぜってぇ自分の言いたいこと言い切るまで帰ろうとしねぇよ・・・)
ナタリアという人物にルークが持っているイメージ、それは悪い意味での愚直さしか持ち合わせていない正直者である。
「ただ今戻りました、ナタリア王女」
一応今までの態度通りにルークは丁寧に頭を下げて対応する。ここでルークを少し知るものなら、戸惑うのが今までのパターンであった。しかし・・・
「まぁなんですの?そのよそよそしい態度は!?」
しかしここでナタリアのとった態度は、いつものようにしろとの叱咤の一言。
(・・・予想以上過ぎる。目の付け所がおかしいぞ、今までの奴ら以上に)
そう、このどこか抜けた一言が出て来る辺りにルークは彼女に好意を持てない理由がある。
インゴベルト陛下の愛娘という事からもわかるとおり、彼女は王女という身分の高さが見受けられる。だが、ナタリアの周囲への気遣いを見せることのない発言も最悪なくらいに高い。今ルークが連れて来ているのはキムラスカの客人、ルークが礼節を弁えた態度をとっているのは嫌味から来るものもあるが、本来これが正しい対応でもあるのだ。更にはイオン達がルークの後ろに陣取っているとは言え、その存在に気付かないわけがない。
まず自分のいいたいことを最優先に発言する、それに加え上機嫌なら上機嫌、不機嫌なら不機嫌そのまんまの感情を相手の考えを汲み取る事なくぶつけてくる。自分がこの家に来てから、ナタリアに十歳のころから成長の兆しの見えない先程のような発言ばかりを聞かされてきたため、ルークは自ら彼女との会話に踏み切ることはなかった。



(・・・泣き落としするか、一番めんどくさくない方法だろうし)
とは言えある程度はナタリアの抑え方を知ってもいるルーク、さっとルークは不安げな顔を作りナタリアを見据える。
「ナタリア王女、母上の見舞いに来られたとお聞きしたのですが母上の具合はいかがですか?」
その不安げな表情に流石に自分の感情を爆発させることだけを考えるのをやめ、真剣にルークに向かい合う体勢にナタリアが入る。
「先程までは横になられていましたが、ルークが帰ってきたとセシル少将から報告を聞かれると多少持ち直されましたわ」
ここでタイミングを逸してはいけないと、ルークはすかさず頭を下げて話し出す。
「申し訳ありません、ナタリア王女。私は母上に顔を見せて参ります。セシル少将が報告をされたとは言え、一刻も早く顔を見せ安心させたいので・・・」
「・・・わかりましたわ」
ふぅ、と内心安心の吐息を吐くルーク。ここで必要以上に疲れる会話をしたくない、そう思っていたためうまくいったことを喜ぶ。まぁ普通目上の人物をまえにしてさっさと退室するのは礼儀に反するが・・・
(郷に入りては郷に従え、ってね。常識違うんだから別にいいだろ)
現に注意の声が上がらないので別にいいだろう、そうルークが思いながらまたナタリアに頭を下げる。
「ではナタリア王女、失礼いたします」
そういうと、頭をあげルークはシュザンヌの待つ部屋の方へとナタリアから逃げるように向かって行った。




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