焔と渦巻く忍法帖 第十話

「で、では・・・ファブレ公爵・・・私は港に・・・」
イオンと公爵のやり取りに口を出していいものかと躊躇いながら、セシル少将が進言する。
「うむ、ヴァンの事はまかせた。私は城に登城する」
二人は入口に向かおうとすると、公爵は修頭胸の前で足を止める。
「きみのおかげでルークが吹き飛ばされたのだったな」
(どっちかと言えばいらん演技したために俺がしくじったんだけどなぁ)
嫌味をたっぷり効かせた修頭胸への言葉を聞いて、ルークはあの時の自分の行動を振り返る。



(つってもあの時の行動自体に落ち度はなかったよな、あれが師匠大好きな‘ルーク’としての正しい対応だし。むしろ問題なのは俺に干渉してきた奴なんだよ。あれがなかったらあのあと修頭胸が捕まって適当に老け髭のして終わりって流れでさっさと移住でよかったんだけどなぁ・・・)
そもそも今ルークがこうやってこんな茶番じみた事を続けているのは、この公爵邸での修頭胸との激突の際に何者かがルークに干渉して超振動を発生させたがためにならない。もしあそこで何も起こらなかったなら修頭胸は老け髭暗殺に失敗、仮に成功して屋敷から無事に逃げ出せたとしても肝心なところで詰めの甘い修頭胸の事。殺人事件の目撃者であるルーク達を自分のやってる事には関係ないと、殺そうとせずに立ち去る事は容易に想像出来る。どちらにしてもルークという屋敷内最大権力者の子供という目撃者の元で罪は明らかになり、どちらにせよ修頭胸の罪は確定決定だっただろう。
(あれがなけりゃトントンと行ったのに・・・)
自分に干渉したのが誰なのかはわからないが、面倒な事をしてくれたとルークは公爵と修頭胸の会話のさなかで内心ぼやいていた。



(一応は老け髭を疑っていたみたいだな・・・)
修頭胸と公爵の会話が終わり、公爵を見送ったルークはまだキムラスカは少しはマシだったと考え直す。
あれは想定外な出来事なのはルークからすれば一目瞭然だったが、周りから見れば共謀と見られてもなんの不思議もない。実の兄妹だというし、同じダアト所属の人間。超振動欲しさにキムラスカsideがルークを奪いに来たと見てもおかしくはない。おかしくはないのだが・・・
(そこまで考えておいて、なんで修頭胸を捕らえねぇんだよ。セシル少将は老け髭を捕らえに行ってんのによ・・・)
共謀だと思ってるなら捕縛するべきだろ兄妹ともに、そんなことをルークが考えていると当人の修頭胸がこちらに向き直る。



「私もここで・・・」
ようやく一人消えるかとルークが安堵すると、ここでまたルークは場所を考慮しない発言を耳にする。
「どうせなら奥様に謝っていけよ。奥様が倒れたのは多分ルークがいなくなったせいだぜ」
「・・・そうね、そうする」
待て!!そう言いたくなるのを自制心を持って抑えるルーク。
(どうせなら?ルーク?ここは外じゃねぇ、てめぇを雇ってる貴族で王族の屋敷だぞ?なんで主の妻に謝罪に行くよう薦めるのに、もののついでになるような言い方で言うんだよ。それに周りに人がいねぇっていっても主の俺をおざなりに扱ってんじゃねぇよ。見られてたらどうすんだよ)
ツッコミ足りない、そう思っているルークだが更に問題のある人物の気配をルークは扉の向こう側から感じ取っている。今はこの馬鹿達に何かを言いたい気持ちを抑えて、ルークは問題の人物が待っているリビングのほうへと向かっていった。





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