焔と渦巻く忍法帖 第十話

「な、何故そのようなことを聞かれるのですか・・・?」
(ダサ、もう動揺してるってばよ)
論理には逃げ道というべき先を望んだ展開を用意する必要がある。しかしちょっと一言言っただけでこのあからさまな動揺の仕方に、用意など全くないことが見て取れる。
「さぁ、大詠師モース。お答えしていただきましょうか、直にマルクトを見てきた私の言葉を遮ってまであなたがそこまで仰るマルクトの脅威とやらを知った方法を」
「うっ・・・」
脂汗をかきながらジワリと後退の様子を見せたモースに、更にルークはたたみかける。
「こうだと言うはっきりとした理由もないなら、あなたは何故陛下のマルクトへの心象を良くない物へと誘おうとするのですか」
「だ、だから事実だと私は・・・!」
性懲りもなく尚も根拠なく言ってくるこの言い分に、余程戦争をしてもらわなければ困るのだとナルトは印象づく。この手の小悪党は自らの利益には少なからず執着するもの、その理由も今までの旅の最中での話からひとつ既にナルトは予想がついていた。
(余っ程大事な預言が読まれてんだな~)
戦争をしても得はダアトには全くない、むしろ戦争の気運により宗教団体としての活動がやりにくくなる分、損だと言えるだろう。
「ならばもうひとつお聞きします、あなたが本当にマルクトの戦争への様相を確認したというのであれば何故あなたはここにいる。まずはここキムラスカより、先にマルクトに行き戦争を止めようとするのが中立の立場のダアトの役割ではないのですか?」
「そ、それは・・・」
何回も繰り返されるうろたえぶりに若干飽々しながらも、ナルトはモースが隠していると思われる預言の内容を想像してみる。
(大方、『キムラスカとマルクトで戦争が行われる、勝者はキムラスカ』ってところだと思うってばよ)
あくまで戦争を開始されても得のないモースがここまでキムラスカに肩入れをする理由、それは戦争が預言に詠まれていて、尚且つキムラスカが勝利すると詠まれているからだろう。マルクトが悪いように思わせているのは、キムラスカに自然に戦争へと持っていこうと考えさせようとしているのだとナルトは予測していた。
「カーティス大佐、導師イオンの他にダアトから使者などが来られたような話はありましたか?」
唐突に話を振られた眼鏡狸であったが、冷静そうに振る舞い返事を返す。
「・・・いえ、ありませんでした」
「このようにカーティス大佐は仰られています・・・あえてもう一度聞きます、戦争を止めようとするのが中立のダアトの役割ではないのですか?」
「だ、だから陛下にマルクトの脅威をと・・・」
ここまで及んでも壊れた機械のように無様に同じ事を繰り返す、そこでルークはより一層底冷えのするほどの冷たい声で罪状を読みあげていった。
「こちらにいるのが誰か忘れましたか?導師イオンがマルクトから和平の仲介として来ているのに対して、あなたは尚も導師イオンの意向を汲み取ろうとしていない。むしろ反感の意さえ感じ取れる。それに親書というマルクトからの和平の証を携えてカーティス大佐はここに来ている。これは疑うべき余地のない友好の証です。それらを踏まえればあなたは導師イオンへの反逆行為と、マルクトとキムラスカの二国を戦争へと導く策を案じた行為をとっています。この事を公にすればあなたは二つの罪で犯罪者の汚名を被る事になります。それでも発言を続けたければどうぞご自由に」
ルークの発言により、体をガチガチと震えさせながら押し黙ってしまったモース。ここまで言われれば自らの立場が危うい事に気付いてしまったのだろう、だが見たところどちらかと言えばルークの圧倒的な声に恐れおののいているのかもしれないが。
「心配しないで下さい、あなたも間違いとは言えキムラスカの事を案じてここにやってきたんですから先程の事は心に留めておくだけにしておきます」
少し暖かみの取り戻した声にモースは安堵の表情を見せていたが、『心に留めておくだけに』という言葉を聞き逃している事は都合がいいと言っておこう。
(ルークはそんな甘いタマじゃないってばよ)
ルークがすんなり優しく納めたまま終わる訳はない、ナルトは視線の先にいるモースに向かって誰にも聞こえない小声で囁いた。



「ま、俺もすんなり終わる訳はないってばよ」





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