焔と渦巻く忍法帖 第十話

何事もなくすぐにバチカルの最上部に到着したルーク達。ルークは城の中に入り、玉座の間へと続く扉をさっさと開けようとした。
「ただいま大詠師モースが陛下に謁見中です。しばらくお待ち下さい」
すると扉の前の兵士が気になる名前を出して、ルークを止めにかかる。その兵士の対応に、ルークは今までの傲慢を主とした態度を一変させる。
「私はクリムゾン・ヘアツォーク・フォン・ファブレが一子、ルーク・フォン・ファブレだ。私は自らの帰還の報告とともに、此度は導師イオン並びにマルクトからの和平の使者を連れてきた。無礼は承知の上だが、これは火急の用。通らせてもらうぞ」
いきなりのルークの凛とした態度に兵士だけではなく、イオン達もがポカンと口を開ける。
ルークも忍としてやっていく上で、口上くらい普通に心得ている。更には忍の任務として敷居の高い場所への潜入操作などで礼節の形式くらいお手の物だ。更には形式張った言い方に加えて、反論が難しくなるような大義名分を伴わせた台詞をスラスラと話す事など朝飯前なのだ。
現にこのような言われ方をされた兵士はただうろたえるばかりで、反論が出来るような様子ではない。それを見たルークはイオンの方に首を向ける。
「行くぞイオン、ジェイド」
「ルーク、いいのでしょうか。こんな・・・」
「今この兵士が言ってただろ、モースってヤツがいるって。本当に戦争を起こしたがってんだったら陛下に何を話してんのか分かんねぇ。なら先に俺達が入っていってその企みをぶっ潰す。だからこれでいーんだよ」
そういうとルークは首を前に戻し、扉を開ける。扉を開けた瞬間、ルークは一瞬だけ上をチラッと見上げ中へと入って行った。



(なーんでこいつらまで入って来てんだよ・・・)
玉座の間を歩きながら後ろの余計な気配達に内心で毒付くルーク。
(俺はイオンと眼鏡狸だけがここに入ると思ってたんだけどな~)
一国の王や最高責任者に会う時、身分が明らかに不釣り合いに下の者は席を外すのが普通である。その点で言えばまずフェミ男スパッツと修頭胸は単なる使用人と他国の一兵士なので、王に目にかかる事は許されない立場にある。コウモリ娘は書簡とイオンの護衛の立場にあるが、国から国への使者は切ってはいけないというのが国交の暗黙の了解になっている。更にはローレライ教団の導師という中立の地域の最高責任者の立場から、危険に晒される可能性は城の中ではあまりにも低すぎる。書簡を眼鏡狸に預けて自分は身分が下なのでと、コウモリ娘の立場から言えばそう下がるのが普通なのだ。
(・・・今更こいつらに礼儀を問うのが間違ってたな、俺)
問いただしたところで、自分も和平の使者で見届ける義務がある、と勘違いも甚だしい事を言い出しかねない返事で帰って来ることが簡単に予想出来たので、ルークは歩きながら呆れ顔をいつもの表情に戻していった。






「マルクト帝国は首都グランコクマの防衛を強化しております。エンゲーブを補給拠点としてセントビナーまで・・・」
(あれがモースか。うわ、背中見ただけでどんなヤツか想像出来た・・・)
玉座が近くなるにつれ、王に熱心に話す声が聞こえてくる。それはダアトの法衣を纏った男が話す声。ルークはその後ろ姿を見ただけで、自分の嫌いなタイプだと確信していた。
「無礼者!誰の許しを得て謁見の間に・・・」
玉座の近くにいた身分の高そうな男が、すぐそこまで近付いてきたルーク達に怒りの声をあげる。一応自分達が無理矢理入って来たため、ルークはうやうやしく頭を下げる。
「無礼は承知の上です、ですが陛下に早急にお耳に入れたいことがございましたのでこのような手段を取らせていただきました」
「その方は・・・ルークか?シュザンヌの息子の」
「そうです、陛下」
「そうか!話は聞いている。頭を上げてよいぞ」
「はっ、失礼します」
王の一言を受け、ルークは頭を上げる。頭を上げたルークが真っ先に見たものは、何やら苦い顔をしている細目の中年太りの代表的体型の男性だった。




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