子を持てば親として、大人として成長するか?

「・・・しかし驚いたな。まだ私の目から見たら楓は選手として活躍出来ると思っていたが、いきなり引退を発表するとは・・・」
「確かにまだやろうと思えばやれました。ですが昔程のプレーが出来なくなっていることもそうですが、ベンチスタートで要所要所のサブ程度の使い方が多くなってきた事を考えるともういい頃合いだと思ったから、辞めることにしたんです。俺が辞める時はまだやれるだとかやりたいなんて風に下がった実力を認めずみっともなくしがみつくんじゃなく、それをちゃんと受け止めた上で辞める時はキッパリと辞めようと思ってましたから」
「そうか・・・楓がそういった結論を出したのならそれでいいと思うよ」
・・・場所はアメリカの楓の家の庭にて。
そこでテーブル越しに椅子に座りながら話す心なしかスッキリしたような顔の楓と、もう80という年齢に差し掛かって白一色になった髪と深く刻まれたシワを更に深くしながら優作は柔らかく笑った。楓の出した結論についてを受けて。
「ただ、俺は今回は選手を辞めるだけだから来なくていいと言った筈ですけど・・・」
「いや何、そうは言われたがやはりと思ったのもあるが私の場合は終活も兼ねてだ・・・楓とタイミングが被ってしまったが私も小説家を引退することにしたんだよ。それで日本以外の出版社や交遊関係のあった人達に挨拶だったりをする為にもこちらに来たんだが、だから有希子は連れてきてないんだよ。一応有希子も来たがってはいたが、もう最後の挨拶回りの為に君も来る必要はないとね」
「・・・そういうことですか」
しかし楓がそもそも引退の労いの為に来る必要はないと伝えたと眉を寄せるが、終活の為だと柔らかく返された答えにすぐに反論の言葉を引っ込めるしかなかった。






・・・優作も有希子も、そして小五郎や英理も。もう楓からすれば両家の祖父母は完全に老齢の年齢に到達していて、小五郎や英理ももう年齢による問題から仕事を辞めてゆっくりとしていた。ただその中で優作は作品を求められていることもあって小説家として活動を続けていたのだが、ハッキリ止めると決めたのだ。それも終活という言葉を用いる形でである。

その言葉にもう優作はこの場にいない有希子や小五郎達とも話し合って来たのだろうと楓は感じたのである・・・優作自身もそうだし有希子達もまだ生きられるかもしれないが、それがずっと昔と変わらず健康なままでという保証ももう出来なくなっている以上はいつ亡くなるかもだが、死ななくても身体がまともに動かなくなる時が分からない以上はもう身を引こうと強い決意を持って決めたことなのだと。






「まぁそこについてはともかくとして、楓としては今後の展望はどうするつもりなんだ?」
「・・・一応コーチを始めとしてスタッフ側として働いてみないかという声が来ているので、まずはそこから始めたいと思います。選手としては引退はしましたがもう今更バスケ以外で仕事が出来るとは思っていませんし、今度はバスケットを盛り上げるんじゃなく支える側に行くのが今まで選手でいた俺がやれることだと思いますから」
「成程・・・セカンドキャリアが決まっているなら安心だが、それ以上にそういったようにちゃんと考えられているなら安心だ」
ただそんな楓の様子にこれからどうするかと話題転換をする優作に、気を取り直して返された言葉にまた微笑を浮かべる。ちゃんと考えた上で出した結論であるし、実際にオファーが来ているなら言うことはないと。









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