ズレてこそ見える物があり、考え方は変わる

「すみません、お父さんをわざわざ送ってもらって・・・」
「いいっていいって。楽しく飲ませてもらったついでだから」
そうして小五郎が家の中に入り玄関先で男に謝罪をする蘭に対し、男は笑顔を絶やさないままに手を横に振る。
「ただ帰る前に君のお父さんから話を聞かせてもらったのもあってさ、これだけは言いたいって思ってた事を言っていい?」
「え・・・何ですか?」
しかしそこで帰る、となる前に男が言いたい事があると切り出した事に蘭はキョトンとしながらも何なのかと先を促す・・・何が話されるのかということもだが、その言葉が後にどのような影響を自身に及ぼすのかを知る余地もないままに・・・



















・・・それから翌日になり、蘭は帰ってこない新一を心配して工藤邸に向かったのだがそこに新一はおらず、代わりにいた隣の家の主である阿笠と工藤家の親戚である江戸川コナンという少年と出会い、そこから色々な流れを経た上でコナンが居候にする形で同居することになりしばらくの時間を過ごす事になった。

この事に関して蘭は新一が姿を消したことには寂しさを感じていたのだが、コナンが入れ替りの形で来たことでその寂しさはかなり紛れる事になった・・・ただかなりと付いているよう、全部を補える程ではない。やはり新一でなければこの寂しさは埋めれないという気持ちもそうだが、以前になかった考えが入り込んだからであった。新一と別れた日に出会った男から言われた「彼氏に対してズレを感じない?」という言葉から、新一関連の事で自分と新一の間に本当にズレがあるのではないかという疑問が。

・・・そんな言葉を男から聞いた時、普段の蘭なら怒りを覚えて反論していたことだろう。だが新一が誤魔化すように自分を置いて離れていったばかりだったため、その言葉を否定出来るような気持ちになれなかったのだ。新一が自分に気を遣ってだとかから行動をしたのかもしれないけれど、自分から見れば頼りにならないだとか遠ざけたいといったような行動にしか思えないと。

ただそんな事を言った男はいきなりゴメンねと言った上でお父さんから新一やその行動やらに付き合う娘ちゃんの話を聞いて感じた印象を口にしただけだから、気を悪くしたなら謝るよと笑いながら言って早々にその男は帰っていったのだが・・・今までにない視点からの言葉は蘭からして新鮮な物であり、自分と新一の見ているものや考えている事にズレがあるのではと考えるようになっていった。

といっても新一が自分に悪感情を持って行動しているというのではなく、どう少なく見てもデートに誘うくらいだから悪くない感情を持っている事くらいは蘭も自信を持って言える・・・だがその後で自分を置いて離れていったあの行動の在り方を思い返すと、もう会えなくなるのではという不安感とは別の考えが浮かんでくるのである。それこそ男から言われたように新一とのズレを感じる形でだ。

だがズレを感じたことには間違いはなくとも、それは言うならば顔の表面を触ってしこりのような感触を感じたくらいでそこまで大きくもなくて見た目にも現れていない物・・・だから蘭は何か引っ掛かるなくらいの物と感じていたくらいだったのだが、そのしこりが次第に大きくなっていくことはまだ蘭は知らなかった。










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