恵まれた環境にあれば完全なヒトとなり得るか 前編

・・・そうして新一が力なく黙るしか無くなってから沈黙が場を支配する時間が数分程経った後、玄関のチャイムが鳴らされた事にセフィロスは当然のように新一を小脇に抱える形で玄関に向かい、数分経つと新一がいない状態で三人の元に戻ってきた。



「・・・新ちゃんは引き渡したのね・・・」
「えぇ。無事に引き渡しは完了しました。一応向こうも俺やその背後の面々の事もあるのでしょうが、貴殿方への配慮もあって丁重に身柄を引き受けると言っていました。この辺りは事前に話していた事が効いたと思われます」
「そう・・・良かった・・・」
それでセフィロスが戻ってきたのを見て有希子がどうかと心配そうに確認を向けるが、大丈夫といった微笑からの返答にホッとした様子を浮かばせる。先程までの悲痛さが潜まる形でだ。
「ただ博士・・・貴方に関しては改めて後で貴方が家に一人でいる時に話に来るとの事だ。何の話をするかは明確に言ってはいなかったが、大方貴方が新一に対してこうしろと判断したことにその後の行動に関して言いたいことがあるんだろう。まぁ一応表向きの事があるから逮捕といったことは余程のことをしなければないだろうがな」
「・・・もうそんなことはする気はないよ・・・この数日の話し合いで毛利君の所に正体を言わずに転がり込めといったことが間違いであったことは理解出来たし、仮に新一がやっぱり元の立場に戻りたいと考えるだろうからそれを助けるという行動が、新一の為になるとはもうとても思えないからな・・・」
だがそんな有希子から一転してセフィロスが向けたこれからの阿笠への諸々の言葉に、阿笠は力なくうなだれながらもう新一に関して何もしないと返した。






・・・今この場で話の中身には具体的に挙がってこそはいないが、セフィロスが新一を引き渡したのは自身の所属している機関ではなく、その機関から話が通った公安である。これは日本に本拠地を置かない機関に所属しているセフィロスでは新一の身柄を海外に連れていくにも、増援を呼んで活動してもらうにも様々に障害があることから新一が意地を張るから駄目だと判断されたなら、公安に新一の身柄を引き渡す方がいいとなったからだ。そして公安としても影で組織を追っているからこそそういった話を色々な意味で見過ごせないから話を受け入れたのである。

ただ意地を張らなかった場合に公安がそのまま新一を引き受けないのはおかしいのではと思うかもしれないが、これは公安側としては新一の身柄を引き受けるメリットがほとんどないというかデメリットの方が大きい可能性が高かったからこそ、新一自身に分岐点を選ばせた方がいいという打算があったからだ。特に自分の為に毛利親子を騙して何も言わずに済ませてきたことから、下手に自由に行動させるような事をした瞬間に新一が逃げ出すのもだが小五郎を利用しようとしていた時のように、自身が組織を捕まえるために都合よく動く段取りを組むのではないかということだ。

だからこそ影での話の持ちかけであったからもし新一が大人しく引いて優作達の元で暮らすと選択するなら、後で新一が何かを起こしてもそちらの責任であり後始末は行わないという条件で見逃すとなって話がどうなるかと工藤邸の近くで待機していたのだが・・・結果は先の通りであり、公安としては正直あまり望ましくない結果となったのてある。

しかしそれでも出た結果は結果であるから公安としては組織の被害者であると共に、表沙汰にしたらまずいことになりかねない考え方をしている新一に関して保護という形を取ることにした上で、優作と有希子達は事情がある上で秘密にするということから公安は何もしないとなったのであるが、阿笠はそもそも新一が毛利家に入り込む大元の原因の人物だったことから公安の心象はかなり悪く、阿笠も自身が迂闊であることを今となっては承知しているから公安の言葉を甘んじて受けるつもりでいるのである。









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