いつかを変えることの代償 前編

・・・英理と結婚しないと決めはしたが、だからと言って他の女性と結婚するかという選択肢があるかといったら小五郎にはその気は起きなかった。

もう精神年齢で言えば以前に英理と結婚した時を越えた時点で80を越えていて、夫婦関係のいざこざを探偵稼業の中で何度も見たり実際に経験した身としてはこの人なら大丈夫・・・と言ったような幻想に希望は抱けなくなっていた。

そんな自分の状態を考えると下手に結婚するより、独身でずっと暮らす方がまだ健康的に暮らせると思い今生では結婚はしないと決定させた。ただその際に自分の両親からせめて見合いくらいはどうだと言われたのだが、それでまかり間違って結婚するような流れになることは避けたかった小五郎は両親には申し訳無いと見合いを受けること自体から断った。

・・・ただそうやって自分一人で生きていくと決めた小五郎ではあるが、そうなれば自分が生きていく中での家事全般は自分で行わねばならない事にも当然繋がる。誰も助けてくれないなら自分がそれらをやるしかないために。

とは言っても小五郎が家事全般で苦労するような事などなく、面倒だなと思うくらいだ。何故なら前世では蘭を育てるためにと一人で奮闘していた経験があるからである。









「よっし、これで準備は済んだな・・・んじゃ、いただきます」
・・・スーパーから帰り、買ってきた食材を料理してテーブルに並べた小五郎。そのメニューはご飯に味噌汁に肉じゃがに前から漬けていた漬物に野菜サラダと言った物である。
その料理に手を合わせいただきますと一声かけ、小五郎は早速と食事を始める。









・・・蘭が家事全般を毛利家の中で担当するようになってから蘭が結婚するまで小五郎は家事を進んで行うことはなかったが、子ども一人を一人で育ててきた経験は伊達ではない。というより料理の腕に至っては小五郎は英理の腕より、随分と上の領域にいる。英理が料理を大の不得意としているという点を置いておいたとしてもだ。

その上で小五郎としては英理に見栄を切って蘭を引き取るといった手前、最悪な環境で蘭を育てることは避けたいと感じていた。よくある掃除もしないしご飯も惣菜ばかりを買ってきてただ食べさせ、自分が忙しいからと親子としての会話もない・・・そんな育児放棄にも等しい事は出来るはずがないと。

だからこそ蘭が小さい時には掃除に洗濯に炊事と家事全般を小五郎は仕事の前や合間に後と存分にこなしてきた、英理にやはり自分が蘭を引き取るといったような事を言われない為にもだ・・・ただ蘭が家事を覚えてからはまず家事をする事もなくだらしない親父となった事に関しては、流石に小五郎も悪かったとは思っている。

・・・そんな前世は置いておくとしても、こうやって自分の為に一人で暮らすことを選んだからには自分自身で金やら家のことをきっちり行わねばならない。そういう状況にあるということに小五郎は自身の生活環境を前世と一新しようと考えだ。

まず食事に関しては何か理由がない限りは自炊して食べるようにすると決めた。これは以前の自分のままのようにしたなら蘭のいない自分なら毎日外食は当然で栄養が偏るばかりか、夜は居酒屋などで高い料理に酒をバンバン頼む日々を送り月の支出が収入よりも多い生活・・・なんて事も有り得ると思ったからだ。

故に食事の時にあらかじめ買ってきておいたビールを飲むくらいはするものの、基本的に自炊で食事をしている小五郎の懐はちゃんと仕事をこなしていることもあり、今生では酷く寒いなんて状況を経験したことはない。ただそうやって懐が寒くない理由は自炊だけではないが、その理由を大きく占めているのは以前では止められなかったタバコとギャンブルを全く行っていない為だ。









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