いつかを変えることの代償 終幕(後編)

・・・そして後日、小五郎の事務所を高遠が訪れる。






「・・・俺達の会話を聞いた後にそんな事を優作さんと話してたってのか、オメー・・・」
「まぁその会話を聞いて言いたいことがあったのも事実ですが、私の自己弁護の為でもあるんですよ。今回は地獄の傀儡師にならないとはいえ、以前の私を知っている工藤さんは何も知らない状態でしたら私に何か余分な接触をしてくる可能性もありましたからね。ですから舞台上で毛利さんに明智警視もそうですが、工藤さんの姿を見つけて二人に接触した様子を見て後で接触してその旨を伝えようと考えての行動です」
「・・・そこまで見据えてってのがやっぱりすげぇな、お前・・・」
・・・それで一部始終その時の事についてを話終えたソファーに背を預ける高遠が自分の為でもあると言ったことに、感心するように小五郎は漏らす。自分の事も含めて油断なく行動出来るその考え方に。
「・・・まぁなんつーか、明智と一緒に会った時の話も含めて改めて感じたが優作さんって普通の人じゃねぇんだよな。いや、悪い意味で言ってんじゃなく能力が高かったり色々な意味で恵まれてるって意味でよ・・・」
「恵まれていると言うのは幸運ではありますが、ある意味では不幸と同義でもある場合もあります。なまじ手の内にあるものが多いだけに、手の中にないものが何かを自覚することが出来ない・・・そしてそれに気付いても今までの感覚をそこで一気にリセットが出来ないからこそ、受け入れることが難しいんですよ。新たな変化と言う物を」
「そんなことを言う割にはオメーはすんなり受け入れてるじゃねーか。今の自分の変化ってヤツを」
「私の本質は変わっていませんよ。人を欺くことに快感を覚え、その為に奇術を用いる・・・それが犯罪からマジックショーの舞台に変わっただけであり、マジシャンになるのは元々の目的でしたからね。私からすれば舞台にやり方が変わっても大して苦にはなっていません」
「むしろ元々やりてぇって思ってたことだし、あの舞台を見る限りじゃオメーらしくノリに乗ってるって感じだったからな。無理も何もねぇってことか」
「ありがとうございます、誉めていただいて」
そんな話の流れに優作についてを話していき次第に高遠についてに移るが、マジックショーの時を思い出して誉める小五郎に高遠は微笑で礼を返す。
「・・・話は少しずれちまったが、優作さんが新一に有希子ちゃんをどうにか出来るかって事なんだろうが・・・オメーの感じだとそうはならないって思ってるんだろ?」
「えぇ。人から言われたからはいそうですかと納得し、全て今までの行動を省みて違う行動を取れる人などまずいません。それは歳を取ったなら尚更ですし、自分が間違っていないと思って生きてきたならよりその傾向が強くなります・・・まず間違いなく右往左往することになると思います。そして記憶のない二人を工藤さんが都合よく御せるとも思えませんからね。ですがそれも全て工藤さんが真っ当な親としてありたいと思うなら、負うべき責任だと私は思っています。工藤君を話に聞くような形で放置していた経緯もそうですが、工藤君の事を含めて積極的に事態の改善に動こうとしなかったツケを払う為にもです」
「・・・本当なら俺も手伝うべきかって思ったんだが・・・」
「自分の力量を見極めるのも、引き際を見定めるのも大事な事ですよ。毛利さんは気に病むかもしれませんが、自身に無理だと思ったことを無理を通してまで行うことはないでしょう。もしそうしたとしても心に重荷を背負ったままではろくな結果にならないのは目に見えてますからね」
「・・・あぁ、そういう風に考えて俺は米花町を離れたからな・・・それなのに今更俺がどうこうしようってのは無理だろうな・・・」
ただ話の趣旨がズレたと話を戻して優作についてとその優作を助けることは無理かと漏らす小五郎に高遠は間違ってはいないと告げ、改めて小五郎は認識し直す・・・自身の力不足を感じながら出した結論に従い行動してきたが、それ自体は間違いではないと思えど苦い気持ちを抱く事も確かだったと。









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