いつかを変えることの代償 終幕(後編)

「貴方は貴方なりに工藤君の事を大切に育ててきたつもりだったのでしょう。ですがそれは工藤君が望んでいたかどうかはともかくとしても、一般的な人としての感覚を失わせてしまったんですよ。探偵としていかに事件と向き合うか・・・それを優先させる考えを持ったことで」
「そしてそれが蘭ちゃんとの離婚に、毛利さん達の心が離れていった・・・という結果に繋がるという事ですか・・・」
「えぇ、そうです。その上で私の言いたいことが何か、と言えば・・・」



「貴殿方夫妻は人の親としては不適格とまでは言わないにしろ、子どもを育てるには向いていないという事です」



「なっ!?」
・・・そしてその流れから会話を続ける高遠が本題とばかりに口にした考えに、優作は絶句した。言葉そのままに捉えれば優作達は親失格とほぼ言われたも同然の物の為に。
「明智警視は親としての責務を果たしていないと貴方に言いましたが、毛利さんの手前もあって多少は遠慮していたでしょう。流石にそこまでは言えないと・・・ですが私から言わせれば、真っ当な親だとはとても言えないと思いますよ。先程の会話の中身だけを捉えても、ね」
「だけ、という言い方は・・・まだ何かあると・・・?」
「えぇ。と言っても厳密には工藤君に対しての態度と言うよりは、貴殿方夫妻の行動と思考にありますけれどね」
「・・・え・・・?」
その上で明智が遠慮した分を話すといったような高遠の口振りに優作が恐る恐る先を聞くと、新一に対してではないと返ってきたことに呆けた声を上げる。
「と言っても先程の話の補足のような事ですが・・・貴殿方夫妻が家を長く空け海外で気ままに過ごすと決めたこと。これは工藤君の事を信じたと言えば聞こえはいいですが、そもそもを言うなら自分達がそうしたいからという気持ちを切り出した事がきっかけだったのでしょう。子どもが日本で一緒に暮らしたいという考えよりも自分達はそうするとそこを曲げず、優先する形で・・・一応貴殿方には工藤君に対しての愛情はあるのでしょう。ですが工藤君よりも海外に行くことを二人ともに優先した貴殿方の決断は子を持つ親と言うより、子どもなどいないで熱烈に付き合っている男女の関係の方がしっくり来ると私は思いました」
「はっ・・・!?」
高遠はそう感じた理由について自分から見たならこう見えるとの答えに、らしくもなく大きな口を空けて優作は驚きの様子を浮かべる。夫婦ではなく男女の関係と見ることが、どうして親として向いていないことに繋がるのかと。
「話に聞く分に、貴殿方の仲は基本的には良かったのでしょう?些細な夫婦生活のいざこざまでは私は知りませんが」
「ま、まぁそれは・・・」
「それは海外で暮らすようになってもだったのでしょうが、夫婦としての暮らしにお互い充実感を抱いていたのでしょう?工藤君という実の子どもがいなくとも十分な充実感を」
「・・・それは・・・」
「無論、貴殿方からすれば工藤君がいない方が良かった・・・などといった考えはないでしょう。ですが歳を取っても仲睦まじく、息子よりも互いの事を優先する選択を取った貴殿方は夫婦としてというより、恋人同士の姿と言っても過言ではないと思いますよ。とても子どもの事を考えている夫婦とは思えないような・・・ね」
「っ・・・」
高遠はそこから有希子との関係についてを聞いた上で新一の事を優先しないことをチクリと突くように言うと、優作は反論が出来なかった。事実工藤夫妻は新一の事を優先した判断を取らなかった・・・という事に変わりがなかった為に。









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