いつかを変えることの代償 終幕(後編)

「自分が傲慢だと言われるとは思っていなかったといった様子ですが、先程言ったもう一つの組織との戦いに巻き込んだという点について・・・これに関して工藤君の判断を認めた事自体が、普通では有り得ないことなんですよ」
「そ、それは・・・」
「組織の規模については先程申し上げましたが、人を殺すことに一片の躊躇も持たない人員が揃い人の体を偶然とはいえ幼児退行させるような薬を作らせることが出来る異常な技術力・・・他にも色々ありますが、そんな底の見えない組織相手に引く気がないという様子を見せられたからと組織と相対することを認めたばかりか、有事の際のバックアップくらいが精々ですぐには手を出すことの出来ない位置に身を置く事が息子さんの為になるのですか?結果論だけを振りかざすなら組織は壊滅したからいいだろうという話になるかもしれませんが、一歩間違い少し運が悪ければそれだけで工藤君が死んでいただろう程の危険が何度もあったのにも関わらずです・・・少しは考えなかったのですか?運よく命が助かった自分の息子が今度は本当に息絶え、その死体を前にして死を悼むことしか出来なくなるばかりか、死体すら拝むことも出来なくなることも有り得たという事態についてを」
「っ!!」
そんな優作を更に追い詰めるように先程用いた言葉はこういうことだと詳しく明智は話していき、最後に詳しくその状況を思わせるようなほの暗い問いかけに優作は息を詰まらせるのではないかというほどに息を呑んだ。新一の死の可能性についてを聞いて。






・・・安穏とし過ぎているその思考は、実の息子の命の安全を守るという親として普通は持つべき考えを放棄させるに至ってしまった。

子どもが困難に立ち向かうのを親が見守り、時としてその手助けをする・・・言葉面だけ取ればいい親だと言えるだろう。しかし新一が目指しているのは自分を小さくした組織を自分の手で捕まえ、潰したいという私心混じりの正義であり命の危険はそこらじゅうにゴロゴロ転がっている非常に危なっかしい物だ。それを息子が絶対に引かないからという姿勢を見ただけでそうすることを認めるばかりか、手助けまで時折するなど普通は到底有り得ることではない。

それこそ明智が言ったように一つ間違えたり運が悪かったら新一が死んでいた可能性など十二分に有り得ただろうし、死体すら見つからないようなシチュエーションになっていたと言うことも尚更だ。組織なら普通に行っていただろう・・・殺害の証拠も消した上で、コナンとしての小さな肉体をまず人に見付からないような場所に遺棄する程度の事は。

だが優作はそんな新一のもしもの危険についてを考えてない様子だった。息子が困難に対してそれらを切り開く実力と運を持っていると信頼していたのもあるからこそなのだろうが、今更そこをハッキリ言葉にされてようやく危険性を理解する程に安穏とした様子で。






「それにです。工藤君に阿笠博士はその事実を周りに話さない方がいいし人を巻き込まない方がいいといったように組織を追うと決めた際には話し合ったようですが、話さないという点だけを守って毛利さんを利用して巻き込んで最終的には組織との戦いに巻き込んだというこの流れ・・・これらはあまりにも工藤君にとって都合が良すぎるとは思いませんでしたか?毛利さんの探偵としての立場を利用して組織に近付くということは毛利さんとその周りを何も知らないままに組織の方に近寄らせるという事であり、現に毛利さんは組織の人間に狙撃をされかけるという状況になりました・・・これが関係無い人を巻き込んでないと言えますか?ましてや、毛利さんが自ら求めて工藤君の手助けをしたいと言ってきたと言えますか?」
「・・・いえ・・・とてもそう言える物ではありません・・・」
「えぇ。工藤君の見通しや認識の甘さは酷いと言えますが、そんな彼の行動による被害を最も被ったのは間違いなく毛利さんでしょう。後の生活に著しく支障をきたし、自分の預かり知らぬ所で殺されかける・・・他にも他の方々の自覚の有無はともかく工藤君による何らかの不都合を受けた人もいるでしょうが、こればかりは毛利さんが一番だと私は思っていますよ」
「っ・・・」
明智は次に新一の色々な甘さが滲み出る行動及び小五郎がどれだけ最もその影響を受けてきたのかを述べていき、その話から優作は辛そうに表情を歪めながら小五郎の方に視線を向ける。新一の行動による何よりの被害者と言われてしまい、どう言っていいものか分からないといった気持ちをふんだんに含ませて。









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