いつかを変えることの代償 前編

「・・・ここまで生きてきて、誰も俺と同じような奴を見つけたりだとか俺が過去に戻ってきたのはこうさせるためだとか言ってきた奴はいない・・・何度も確認はしてきたが、やっぱり誰かのせいで俺が過去に戻されたって可能性はないだろうな・・・」
買ってきた本はとうに読み終わり、机の上に置いてある。その本を見ながら昔の事を振り返りつつ、昔の自分では言わなかっただろう事を小五郎は口にしていく。









・・・色々とタイムスリップ関係や逆行物の本を見ていく内に、小五郎はこのジャンルだけでもこれだけの差異のある状況が作れるものかと感心していた。そして様々な状況があるが故に、小五郎は様々な事を危惧していた。その中でも小五郎がこの状況だったら嫌だと危惧していたのは誰かの陰謀により逆行させられたのではないかということと、逆行前と同じような展開になるようにと修正力が働いているのではないかということだ。

ただ前者であれば大抵の話では黒幕なり原因なりが主人公に接触してきてどういう行動を取るかに取ってほしいかの話などが断片でもされてきたが、小五郎の前にはそういった人物は現れたことはなかった。無論だから安心と決まった話ではないが、新一や他の人物達ならともかくわざわざ小五郎を選ぶ理由が見当たらなかったことから、あくまで何らかの偶然か何かで過去に飛ばされた可能性が非常に高い・・・小五郎はそう考えていた。

それで後者についてだが、小五郎が読んだ本の中では逆行した後の結果として自分の思うようスムーズに思うがままに動けた話もあれば、逆行前の結果を変えて行動しようとしても逆行前のようになるように世界が修正力を働かせるように働きかけて、主人公達を邪魔する・・・と言った話もあった。

小五郎としてはそんな修正力が働くような展開は是非とも避けたかった・・・何故なら今生においては英理と結婚する事もそうだが、新一達と関わることもしないようにしようと思っていたからだ。

・・・前世で自分がいかに不甲斐ない事をしてしまったかを自覚しているし、心残りがあったことも十分に自覚している。だがならといってある程度同じような展開にまで行ってから前以上にいい展開を自分の頭で導き出せるかというと、小五郎には全く自信がなかった・・・自分の調子に乗りやすい性格に、頭脳は常人より多少毛が生えた程度の能力しかないことは今となってはもう痛い程自覚している為に。

・・・それにもう一度英理と結婚するにしても、前に結婚した時と同じ程の気持ちで結婚を申し込めるようなモチベーションが小五郎にはもうなかったのだ。心残りがあったとは言っても離婚という形で区切りはつけたし、精神的に老人の自分が向こうの精神年齢に合わせて恋愛をして英理を振り向かせるようにというのはキツいとしか言いようがないし、前のこともあって英理を自分の手元に留めておけるか・・・そういったことを考えると、小五郎は気が重くなるとしか言えなかった。

ただその理由も踏まえた上で英理と結婚しないと選択した最も大きくて唯一無二の理由が・・・蘭が生まれて新一と関係が出来ることにより、またあの組織と対決する図式にしたくなかったからだ。これは新一達の為という気持ちが全くない訳ではないが、小五郎が自分を巻き込むという構図を知ってて放っておくなど出来ないと考えたからだ。

・・・前世で新一から組織と何度か出会い対峙した時の事について話を聞いた小五郎は、自分が置かれた状況がいかに危ない物であったのかを聞かされて愕然とした。その中で最も冷や汗をかいたのは新一が行動を起こしていなければ、銃での狙撃を受けて殺されていたのでないかというシチュエーションがあったことだ。

新一がその話を笑い話のように昔の思い出を語る様子に、小五郎は表面上で怒ることすら出来なかった・・・新一は自分が小五郎を何とか助けられたからそれでOKと軽く思っているが、一つ間違っていたら小五郎は生きてはいなかったという事実には一切目を向けていない・・・それで更に続いたいかに危険な状況だったかの話が続いたことに、小五郎は疲れた表情を隠すように手で覆いながらもう聞きたくないと言って場から立ち去った。

・・・新一が動かねば組織が潰れず、被害が更に大きくなっていただろうことは理解はしている。だがそれをもし同じことが起きた状況の中で、自分が何も知らないフリのままで新一に使われてやるかと考えた時・・・無理だと小五郎は一瞬で結論を出した。同様に新一と最初から協力関係を結び、新一の推理を表向きは担当する役目を担うことも。












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