知りたいものを知れることが幸せに繋がるとは限らない

「・・・んじゃ逆に聞くが、お前に新一は俺がそうしてほしいって願った理由について見当はついてるのかに話し合いはしたのか?」
「えっ・・・?」
だがそんな小五郎が目を開けることなく静かに投げ掛けた問い掛けの声に、蘭は戸惑いの声を漏らした。
「・・・俺は別に単なる思い付きからそんなことを願った訳じゃないし、話からして英理もそんな俺の考えを尊重してくれてそうしたんだろう。だが俺がそうしてほしいって事に英理がその考えについて何も言わないでいてくれたってことには、それ相応の理由があるが・・・その理由に関してお前らは考えたとか話し合ったのかって言ってんだよ。どうなんだ?」
「そ、それは・・・その・・・正直に言うけど、考えられなかったし話し合えなかったわ・・・あの時のお母さんの様子だと聞いても教えてくれそうになかったのもそうだけど、実際に聞いたらもう取り返しがつかないことになるんじゃないかって思ったし、私もだけど新一もそうだろうけど・・・何かこの事を話したり明らかにしちゃいけない雰囲気になったから、どっちもそんなことを言わないままになってって・・・」
「それでそうしてる内に英理が死んじまったもんだから、結局こうだったんじゃないかみたいなことも考えずじまいで終わっちまったってことか・・・」
小五郎はそのまま理由には触れることなく話をしていくが、蘭もだが新一も知ることも考えることもなかったと否定を返す様子にそっと首を横に振った上で目を開け・・・視線こそ合わせているが、蘭の事を映していない暗い瞳を向ける。
「・・・どうしてそんなことを選択したのかって事に関しちゃ、本当に聞きたいって言うんならさっき言った話を踏まえて俺はもう会わないのは確定してるから話してやってもいいかと思っちゃいる。だがそれでなら聞くって軽い気持ちで答えられてその話をして文句を言われても面倒だから、お前が最後に聞くかどうかを判断するために言っといてやるが・・・お前に新一からしたらそんなことを思ってたなんてみたいな事が俺がそうした理由になるし、その話を聞きゃ多分っつーか間違いなくお前は愕然とすることになると思う。そうなるだろうことを承知した上で俺の話を聞きたいって言えるか?」
「っ・・・!(・・・わ、分かる・・・お父さんは決して大袈裟でも何でもない事を言っているって言うのが、この様子から・・・!)」
それで最後通牒といったように聞くか聞かないかを問い掛ける小五郎に対して、蘭は驚きと共にその言葉には冗談なんか一切ないということを心から理解した。いや、させられてしまった・・・前世も含めて一度も見たことがなかった自分の知る小五郎とはかけ離れた姿と声に、本当に小五郎は蘭達にとって相当な事を抱えているのだと。






・・・蘭もそうだが新一も小五郎の事を見誤ったと言うか、こういう人物だろうという決め付けをしていた。調子にノリやすくて物事を深く考えることもないし酒も女もギャンブルも大好きなダメ人間だが、いい人であり憎めない人だというよう。

現に蘭はダメだと思う部分に関しては呆れていたり直してほしいと思いつつも、親として嫌いだしそう思えないなどとまでは思っていなかったし何なら英理と元の鞘に収まった上でまた三人で家族仲良く暮らしたいと思っていたくらいだ。

しかしそういった考えを抱いていたものの小五郎についてを見直すような事はないままに時間は進み、新一と結婚して家を出てからはもう工藤の家に嫁いだ上に優作に有希子が日本に帰ってくることもほとんどなかったことに加え・・・小五郎が内密に出来る限り蘭達と会うことを避ける動きをしていたため、子どもが出来たことも相まってもう毛利家としての三人だけの生活に戻ることはないのだからと、小五郎の事を次第に気にすることもなくなっていった。何だかんだでちゃらんぽらんながらも交遊関係は広かったし、本当にお金に困るなどしていたらその時にどうにかすればいいと思って。

だがそうした考えを持つことにより小五郎に対しての認識はずっと凝り固まったままになり、その真意を知らぬままに生きてきたのである。ずっと自分の思うままの小五郎であると思ったからこそ、全く知らない小五郎の事を見せられてどうしようもない今に不安を抱く形で・・・









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