いつかを変えることの代償 終幕(前編)

「空手がないなら危険だった場面がいくつもあったのもそうだけれど、更に言うなら犯人の鎮圧にだったりで力を振るってきたのもまた妃さんの考えが固まった要因ね。他の人が動けない、もしくは戦えない状態で危険人物を空手で撃退する形でね。そしてそれを目暮警部達を始めとして知り合いというのも相まって妃さんがそうすることは当然の物と認識し、止めたり注意するどころかむしろ助かったとばかりに誉めることも多々あった・・・それが本来なら良くないことだと考えることなくね」
「・・・いくら危険をどうにかするためっつったって、空手を習っていて実力があるからって事件解決を一般人がしていいわけねぇもんな・・・」
志保が更に蘭がいかにして自信を持ったのかのその理由を話していき、小五郎も実感がこもったようにその言葉が正しかったと苦々しげに感じていた。






・・・いかに空手で腕が立とうが小五郎にとって蘭は大事な娘であって、そんな危険に会ってほしくも立ち向かってほしいとも思ってはいなかった。むしろそういった話を聞いて自重をするようにと蘭の性格を考え、強くは言わないものの軽く止めるようにと言うこともあるくらいには小五郎は蘭の事を時折心配していた。いかに空手が使えても凶悪な事件に犯人に出くわせば、空手が役に立たない事態も十分有り得ると感じていた為に。

しかし新一と行動をよく共にして事件に出会うことからそんな危険と巡り会うのを避けるようどうにかすることは非常に難しいばかりか、事件の解決に一役買うことが何度もあったために知り合いの刑事達からはお礼を言われたりもしていた。犠牲者を更に増やさずに済んだ上に犯人の鎮圧が出来たことを。

その上でだが、警察の知り合いが蘭もそうだが新一にもいたことが二人の状況を促進した一因でもあった。本来なら警察という存在は進んで近寄るような物でも仲良くなるような物でもないが、小五郎に新一の親の優作は一部ではあるが警察に知り合いがいたために。

ただそれが単なる知り合いというだけならともかく、その知り合いである目暮警部達は事件に際して新一に事件解決を頼んでくるくらいには新一を頼りにして連絡をしてきたりもしていた・・・本来警察が探偵、それも高校生の素人を頼ること自体をおかしいと思うなり対抗心を抱くなりして自分達で解決するのが立場として当然である筈なのにだ。

しかしそんなことを思わないばかりか、事件解決をした際に笑顔で新一に助かったと礼を言うことすらよくあった・・・事件が解決するならプライドなどどうでもいいといった風ではなく、心から良かったといったようにだ。そして蘭が犯人を鎮圧した時でも同じような物である。

・・・この辺りは新一が事件に関わることに慣れすぎた上で当然の物と、その実力が偶然ではなく必然という考えを持つのは当たり前だと目暮警部達が認識していたからだ。そしてそれは小五郎に園子達も同様の考えだったが、一度新一達から長い間離れたことからそれが異常な事だと分かるようになった・・・目暮警部達当人の資質もあるのだろうが、新一が事件に首を突っ込める環境が整えられているということが。






「もうそこまで来てしまったのなら、いっそ空手を使ってしまった方が身の安全を確かにするにはいいわ。工藤君に関わることを止めないと言うのであれば・・・でもそうして困難を越えて縁を深めても、自分達の中にある根底の考えをどうにかすることは出来なかった」
「つーかむしろ困難ってヤツを越えちまったから、日常の小さな問題ってヤツにつまづいちまうんだろうな・・・すげぇ困難を一緒に乗り越えてきたんだから、このくらいのことは分かるだろうみたいな感じになったりこれくらい察しろみたいな変な信頼感だったりがどっちにもかどっちかだけか問わず、生まれるんだろうしな・・・現に俺は新一が俺が死ぬ寸前だったってのを止めたって話を笑顔でした時、たまらず引いてしまったからな・・・」
「それはおじ様が正しいわよ。自分が死にそうだったのにそんな風に言われて平気そうにってのもそうだし、ましてや笑い返せるなんて普通の人じゃ有り得ないもの」
「・・・そう言ってくれるとホッと出来るぜ、俺は間違ってないんだってな」
だからこそ空手が蘭と新一の縁を深めたが結婚には向かなかったと話す志保に小五郎は自分の体験から感じたことと新一から言われたことを併せて話し、園子が同情的な声をかけたことに心から安堵した様子を浮かべた。新一が合っていると言われたなら自分は何なのか、そう考えざるを得ない中身だった為に。









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