いつかを変えることの代償 終幕(前編)

「・・・正直に言うけれど、新一君の話題抜きで蘭と付き合うのは無理って感じたからよ。性格的には名字は妃になってておば様と一緒に過ごしててもそんなに変わってないようだったし、新一君との関係性も似たような物・・・そんな中で蘭の性格を考えると、新一君の話題を絡めないように私が頑張っても新一はこうでこうなの・・・とか自分から言いそうだってのが簡単に頭の中に思い浮かんだのよ。そして仲良くなればなるほど新一君を恥ずかしがりながらも呼んできて、実質的なノロケを始めた上で新一君との関係を絡ませてくるってね」
「あ~・・・確かにそうなるだろうな、あいつの行動パターンを考えりゃよ・・・」
園子はその上で覚悟を決めたと蘭に接触しない理由を口にし、小五郎もその理由に納得してしまう。蘭が新一の事を好きだからこそ、新一と絡む機会は否応なしに増えるだろうということに。
「言っちゃなんだけれど、もう蘭の頭の中から新一君をどうにかするのはほぼ無理よ。小さい頃からずっと一緒にいて、その時からずっと好きだって気持ちを抱えてて、もう二人がくっつくのが当たり前みたいな空気が公然のような物として流れてる・・・その先にあるものが好きあうだけじゃどうしても越えられない物があるなんて考えることなくね」
「それに未来の事は置いておくにしても、彼女が空手で工藤君の事件でトラブルに巻き込まれた時に状況を打開していたこと・・・これも妃さんの工藤君への傾倒が顕著になった理由の一つだと思うわ」
「空手が・・・?」
そんな蘭から新一を抜かすことは出来ないとその想いの強さを語る園子に、更に志保が空手も理由にあると言ったことに小五郎は首を傾げる。
「彼女が空手を習い出したのはある人の試合を観てからの憧れであるという風に鈴木さんから聞いたけれど、その空手が彼女の才能にマッチしたということに関してはまだいいわ。けれどそれで時が過ぎて工藤君の事件に関わって時折襲われるような危険と向きあった際、彼女は空手で培ってきた技に身体能力を駆使して難を乗り越えていった・・・命を守る自衛の観点から考えれば決して間違いではないと言えるかもしれないけれど、もし彼女が空手を習っていなかったら彼女は工藤君の隣に常にいられるような実力は伴っていなかったでしょうし、それ以上に精神の方がボロボロになって離れていったでしょうね」
「つまり・・・蘭が空手を使えたから新一の隣にいる事が出来てたってことか・・・」
「えぇ。困難を共に乗り越えると言うのは、恋愛において関係を進ませるには十分にプラスの要因と言える物よ。そしてその空手があるからこそ工藤君の隣に幾度も立ててきた彼女は、工藤君への傾倒を強めていった・・・こんな手間がかかって危険な新一と一緒にいれるのは自分しかいないという考えをね」
「・・・そう聞くとあんまし空手を習わせねぇ方が良かったって気もするが、空手がなきゃ蘭が危なかった場面も何度もあったって思うと複雑だな・・・」
空手がいかに蘭の考えを強め、新一との縁を強めてきたのか・・・志保が空手が蘭に及ぼした影響についてを話していき、小五郎は何とも言いがたそうに漏らす。






・・・一人で蘭を育ててきた小五郎にとって、蘭が空手を習いたいと言ってきた時は怪我だとか体の事について心配はしたものの、武道に興味を持つことは悪いことではないし、苦労をかけていた娘のわがままの一つくらいは叶えてやろうと空手を習う事が出来るようにと許可を出して、胴着なども購入する資金を出して長く続けられるようにという体勢を作った。

この事自体は悪い事ではなかったと小五郎は思っている。蘭に空手の才能があったことは都大会で目覚ましい活躍があったことで確認出来たし、至極楽しそうな様子だった姿を見ていて親心として心から嬉しかったのだから。最も、そんなことを素直に言えるほど前の小五郎は明け透けな性格では無かったが。

しかしそんな空手が蘭の新一への傾倒を強めたというのは、小五郎にとって・・・そして今の園子達にとって皮肉な結果となった。









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