死んで尚の恋が終わる時

・・・そうして光太郎の振り切り方と自分の対比をして気持ちが落ち込むのをどこか感じずにいられない中、時間は進んでいくのだが・・・予想外でいて望外かと思われていた時間は唐突に訪れた。



「・・・ここが今の新一の家なのね・・・!」
「あぁ。本当なら前の工藤の家みたいに立派な一軒家を建てたかった所だったんだけど、今のところあんなに大きな家を建てても一人で暮らすだけだって考えたらスペースが無駄だって思っちまってな。だからまずは小説を書いたり読んだりするにも十分に余裕があるスペースがあるマンションを買おうって思ってな」
「そうなんだ・・・!」
・・・都内のとあるマンションの一室にて。
そこのリビングのテーブルに備え付けられた椅子に座る蘭は抑えきれないといったようなテンションのままに対面に座る新一に声をかけ、余裕を持った笑みで返すその様子にまた星が周りに舞っているのかと言わんばかりに顔を綻ばせる。






・・・蘭が新一と再び出会ったのは今通う大学での講義が終わって帰る最中、たまたま食事をするために近くのファミレスに行こうと外出していた新一と道で顔を合わせた事からだ。

最初は互いが互いに信じられないといったように顔を見合わせるしかなかったが、先に冷静さを取り戻した新一が蘭なのかと確認を向けてきたことにたまらず涙を浮かべながら抱き付いてそうだよと肯定して・・・ただただ号泣していった。まさかこんな形で再び新一と出会えた上で、新一も記憶を持っていたと思わなかったことに感動してだ。

そんな蘭をなだめて落ち着かせた新一は一先ずは話をして互いのことを報告しようと切り出し、まだ泣きたいといったような様子ながらも蘭も頷いて共に新一が向かう予定だったファミレスに行き、食事をしつつもこういった生活を送ってきたと話し合って互いに落ち着いていった。

ただそうして話し合う中で互いに前世では一人っ子だったのに兄弟がいて、しかもその兄弟が自転車競技部の人間であることに意外な物だと笑いあった物だったが・・・その兄弟だったり自転車競技に関しての関心の度合いが違うことに関しては、この時蘭は気付いてはいなかった。蘭は光太郎に話を聞いて結果は残念だったにしてもインターハイの事が載った雑誌を買って情報を見るくらいには関心があったのに対し、新一は山岳が二位で惜しかったくらいでロードは過酷な競技だといった認識程度にしか考えてないことを。

しかしそこについてはともかくとしてもそういった事を話していって食事を終えて新一が家に戻ると切り出し、付いてくるかを聞いてきた為に蘭は即刻で頷いて付いてきたのだ・・・高校を卒業するとなった際に今までに小説を書いて貯めていた金で買った一人で暮らすマンションに行くかと。

そして付いてきて感激といったように輝くように表情を浮かべた蘭だが、始めに話を聞いて『工藤優作』の名前で活動していた事が自分がここにいるというメッセージだと言われて回りくどいんじゃないと言ったのだが・・・これに関しては蘭が単純に本に関心が無いことに関してを自分の中から度外視したが故の物だ。実のところとして前世の父親であった小五郎も本を読むことはあまり無かったが、それでも暇な時は本を読むこともあったし文章に向き合うのも仕事の報告書を作る関係上苦ではない作業だった。

しかし蘭に関しては推理小説は新一が読む物だから自分は読む物ではないと断じて読んで来なかったし、だからといって別のジャンルの小説や本を好んで読むような事もなかった。精々読む本と言えばたまに興味を惹かれるテーマだったり光太郎のように身近な誰かの活躍が書かれたような雑誌が精々といったくらいで、本を好んで読む事もだが義務感から読むこともそうそうなかった上で作者が誰かなど余程流行った名前でないと把握することもないのである。だから『工藤優作』なんて名前が出ても知ることも無かったのだが、そこに関しては先に言ったように自分が本を読まない事を度外視したが故であった。









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