死んで尚の恋が終わる時

「でも何だかんだで光太郎はいいけれど、私はまだ前世のことを振り切れてはいない・・・就職活動とかの事を含めると四年の夏がギリギリって所だから、それまでにはスッキリしないとね・・・」
しかし蘭はすぐに自身の事についてを考え、これからの行く末に表情を曇らす。






・・・転生して十九年近くの年月が経ったが、前世のことを完全に振り切れていないこと以外は基本的に蘭はこの世界での日常を楽しんできた。光太郎の紆余曲折を経た部活関連の話題にはハラハラしたり、こちらでの父親との噛み合わない気持ちにヤキモキしたりすることはあるがだ。

特に事件に関わることが無くなったことに関しては光太郎の事を励まそうとした時にふとそうだったと気付いたことから、今の暮らしの前と違う大きなポイントはそこにあると思ったくらいだ。これは新一と違って蘭は事件が起きることやそこにある謎を推理するようなことなどなく、巻き込まれただけの傍観者であり精々暴れだした犯人と習っていた空手で対峙するくらいだったからである。

そんな事件との合瀬を新一と知り合ってから新一が生涯を終えるまでに数える気にもならない程にしてきた蘭だが、こうして生まれ変わってから事件に出会すことなど一切ないままに過ごしてきてそれらを普通としてきたことに蘭はその時に今更ながらに気付いたものだった・・・これに関しては単純に蘭は事件の解決を望んでないわけではないが、新一のように謎があって推理することを望んでいた訳ではなく、早く終わってほしいといった気持ちしか事件に関しては持っていなかったからだ。

ただそこに事件を解決する為に真剣に頭を働かせていく表情に、謎を解き明かしたといったような不敵な笑みについてはカッコいいと度々見惚れていって大人になってからもそれで見直していく物だったが・・・そんな新一関連の事は関係のない蘭自体の気持ちには、事件を望むような物など一切無かった。だからこそというべき形で蘭からすれば事件がないことは当然であって、望むような物ではないからそれがないのはむしろ歓迎される物であった。だから蘭としては事件の事など気にしてすらいなかったのである。一々煩わしい筈の事など気にする気にならないからと。

・・・しかしそうして事件が起こらないからこそ、この世界なら新一と事件の関わらない形での付き合いというか恋愛はどうなるのかという考えが、それはもう考えても仕方無い事だと言い聞かせてもどうしても浮かんできてしまうのである。今となって思い返せば散々に事件に巡りあってきたことから、結ばれるまでですら遠回りも遠回り以外の何物でもない行程を重ねていたと。

これはデートもそうだし何かの記念日だったりに事件が起こらない方が珍しいくらいに事件は起きて、ならばとそんな区切りの日ではない時に出掛けてもそれらが事件で台無しにすることがほとんどであった。その為に蘭としては甚だ不本意だったが結婚をしていたことで子どもを作る事を視野に入れたかった為、新一に仕事が入ってなくてもう外に出ないという時間になったことで自分からそういった行為をしようと切り出すしかなかった。蘭としては新一からのリードでロマンチックな雰囲気で致したいと思っていたのだが、外に出て事件が起きれば新一はそちらに集中する上で性欲の代わりに推理欲に満たされているのかとばかりに全く手を出してこない・・・そう考えれば蘭から機を見計らって切り出すしかなかった。さも自分から求めるという形を取るのは不本意だと思ってもだ。

そういった不本意な性事情は過去の事だから仕方無いとしても、もしこんな事件が起きない環境で新一と付き合えたならと考えてしまい・・・それらを振り切ることが出来ないのだ。こんな世界なら新一とも平和に暮らせた上で付き合えて、転生したのが一人じゃないんだという救いになるのではないかという気持ちを・・・









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