いつかを変えることの代償 終幕(前編)

「話を戻すけれど、工藤君はそうして周りをどんどんと非凡の場に自分の周りにいる人を引きずり込むような性質に才能を持っている・・・赤井さんにそっくりな声の人のキャラのセリフに『君はもう、皆の中には帰れない』なんて言葉があるのを思い出したけれど、そういう工藤君の習性だから自分が周りから見たら異質だとか孤独だなんて実感はないと思うわ。むしろ彼の事を知ってはいるけど然程近くも遠くもない形で知っているといった程度の人は彼の行動を期待していた節すらある・・・推理ショーを楽しみにするお客様みたいな感覚でね」
「っ!・・・推理ショー、か・・・そう聞くと高遠が自分に近いって言ってたのが、より真実味ってヤツが増すな・・・」
志保は話を続けいかに新一が周りを巻き込むことに長けているかを話す様子に、そこで小五郎は前に高遠が言ったことを苦い顔で思い出す。






・・・新一が通っていた帝丹高校では、新一の推理はそれこそショー・・・まるで名物のように思われていた部分があった。現に志保が一時的に体が元に戻った新一の推理する場面を見ていたが、周りの生徒は殺人事件が起きているのに新一の推理が始まった途端に空気が一気に期待感に満ちた物に変わり、女性陣からは黄色い声までが出ていた。

そんな光景、普通なら有り得るはずがない。だが帝丹高校の人間はそれを当然とし、新一もまたそれが当たり前の物であるといった様子だった。人が犠牲になっているのに、事件となっているのにだ。

それも新一が学校にいるからすぐに解決する、むしろ新聞にもテレビにも取り上げられるスターの推理を見れるという信頼に期待があっての事だろう・・・事実事件は大抵すぐに解決し、その推理の見事さは帝丹高校の人間はよく理解していた。

だがそんな新一の当たり前は距離を置けば、異常としか取られかねない物だ。今となっては距離を置いた志保達はその姿があまりにも常識からかけ離れた物かはよく分かる問題であるし、小五郎も高遠の言葉を思い出して高遠と確かに似ていると感じるものだと言えた。

・・・事件をかつて起こしていた側と解決する側、立場としては真逆な高遠と新一・・・だが犯罪をショーに魅せるように出来る、ある種のスター性を発揮するその性質は近しいと確かに言えた。

ただ新一はそういったことを計算して行っているわけではなく、むしろ天然・・・ナチュラルに演じている。正義の探偵がいかに格好よくキザに決め、事件を解決するべきかという役柄を。この点では高遠のように全てを計算ずくで犯罪を演出し、いかに魅せる事が出来るかを考えるやり方とは全く違うと言っていいだろう。

しかし前にも高遠が言ったが、決して新一はその事を認めようとはしないだろう。自分が犯罪者である高遠などと一緒にされたくないという気持ちもあるだろうが、計算も自覚もない今まで正しいと思ってきた根強く自分を支える自分の考えが、人から見ればこういう物だと自認したくないが為に。






「高遠という人については私はあまり知らないからともかくとしても、そういった工藤君の性質におじさんもそうだし私達も引っ張られて非凡な日常に足を踏み入れていった。あたかもそれが普通の平凡な日常であるかのように」
「・・・それを当然って思えるのがこえぇな。今になって思うとよ・・・」
それでその性質に自分達も影響されたと話す志保に小五郎はしみじみと感じる、数えるのがうんざりするほどの数の危険な事件が起きることが日常化する事を平常と感じさせる新一の性質に。









.
13/19ページ
スキ