揺れぬ正義を持つ狼の目 後編

(ま、あの工藤新一というガキは本当にガキそのものだったからな。後の対応は安室がやると言っていたし、もうあんな悪党にもなれんガキを相手にする気にもならんがな)
そんな考えを抱く斎藤はふと新一の事を思い出すが、大してもう興味はないというように思考を終わらせる。






・・・斎藤にとって工藤新一とは、正しく頭がいいだけのクソガキでしかなかった。阿呆とよく言っていた前世の知り合いよりは全然頭こそはいいが、その前世の知り合いとは違い・・・何だかんだで損得を天秤にかけた上で行動を共にする気にはならないと思い、もう工藤新一には協力をさせない方がいいと断じる事にした。

確かに能力だけを見るなら新一は組織の壊滅の為にも役に立っていた可能性は大いにあるとは斎藤自身も感じてはいた。事実、それで運の巡り合わせも良かったからとは言え赤井や安室達とも組織関連で近付けるくらいには行動は出来てはいた。

しかしそれはあくまでも組織に近付くのが出来たのは運も絡んでの事であるが、更にそんな部分以上に問題視というか確実に障害となり得る部分が何かと言えば・・・いざ組織との対決の際に絶対に人は殺すなと言うと共に、死なないでくれという都合のいい願いを強要してくる事や単独行動をするだろう可能性が高いという部分だった。

・・・この辺りの人を殺したくないし殺させたくないという倫理観を持つこと自体は斎藤も否定する気はなかった。しかし新一の事を調べて話を聞いていくにつれてそれはニュアンスが違い、自分が手を汚してないと思いたいからこその考え方なのだと考えるようになったのだ。

特に赤井の死体の偽装の事を考えれば、尚更にそうではないかと斎藤は考えた。新一達には散々言ったがその件に加担というか賛成して協力までしたのは、最早端から見たなら罪がないとはとても言い切れないようなものだったのだ。なのに新一はそれらについてを突き付けられるまで、自身の罪については全く考えてもいないといった様子だった。

そして他にも阿笠の発明品を使ったりだとか様々な違法な行為をしてきたのだが、それらもまた指摘するまでは自身に罪や申し訳など一切ないと言えるような様子だったのだが・・・あの様子を見て斎藤はより確信を強めた。もしそれらを話して事実を飲み込ませようが気を使って話をせずじまいで終わらせようが、どちらにしても組織との対決の際に新一がいたなら人を殺すなと言い出していたのは確実だっただろう・・・そして自分がこう動くのが最善だからと独断の単独行動をしかねないと。

いやむしろ事実を飲み込ませていた方がより一層そうしてくれと言っていただろうと斎藤には予想がついた・・・確かに今までの事は認めなければならないかもしれないが、だからこそこれ以上罪を重ねたくもないし他に重ねさせたくないというように気張る形でだ。

そしてそんな新一がその場にいて対決が無事にうまくいく可能性があるなどとはとても斎藤は思えなかった上で、新一の推理力は惜しいがというように言っていた安室にもその事を伝える形で新一の事を諦めさせた・・・事実組織との対決の際、斎藤達側も少なからず被害があった上で組織側もいっそ捕まるくらいならと諦めて自殺した構成員もいたことを考えれば、それは決して間違いではなかったと安室も後に認める形でだ。

特に自殺した構成員に関しては捕まえることが出来なかった事を何故だと言い出し、抗議の声を向けていたことは想像が容易くついたと安室は言った・・・外国ではことさらにそうだが組織の人間に限ったことではなく、凶悪犯が事件を起こした後に捕まりそうになった時に何故自殺をするパターンが多いのかと言えば、単純に捕まりたくないという一念が大きいからだ。それまで思うように行動を出来ていたのに捕まってしまえばそう出来なくなるばかりか、刑務所に入れられるなどすればとてもその後の生において自由など有り得る筈もない。

故にこそ組織という世界規模の犯罪組織にいた構成員が後の人生を苦痛に満ちた気持ちのまま生きるくらいならと自殺を選ぶのはある意味必然であったのだが、そういった犯罪者の心理を考えられずにそれを防ぎつつも捕縛する事が出来なかったのは何でだ・・・と言いかねなかったと考えれば、新一を引き込まなくて良かったと斎藤は本当に感じたのだ。









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