揺れぬ正義を持つ狼の目 後編

・・・そして少し時間が経った後、斎藤は空港に辿り着いた。






(・・・これでまたしばらくは日本から離れるか・・・まぁかけそばはまた日本に来れば美味い物は食えるから、それまではインスタントで行くか)
・・・そうして飛行機の時間が来るまで時間があるため、喫煙スペースに入り斎藤は煙草を吸いながらかけそばの事を考えていた。栄養のバランスなど一切考えていない偏食一直線な事を。
(・・・ま、これまでの仕事に比べれば奴らは手応えはあった方だが・・・文明が進み武器に頼るようになればこんなものか。志々雄やらがこの時代の事を知ったなら、侮蔑の目に声を向けていただろうな。それこそこんなものか、と)
ただそんな食の事はさておきと斎藤は今回の事から、昔に会った人物達についてを思い浮かべる。遠い遠い過去に出会った、時代の違う敵達の事を。






・・・斎藤には前世の記憶がある。それは日本の歴史の中に名を残す新撰組という組織の中にて、三番隊組長という立場にいた斎藤一という過去の人物の記憶がだ。

そんな斎藤はこの時代に記憶を持ったまま生まれ落ちて育っていくのだが、知れば知るほどに文明が進めば進むほどに人は変わっていくものだと感じたのだ。様々に技術が発達して便利な世の中になったことは認める上で、同時に小賢しい考え方を身に付けるだけ身に付けて自分の力に牙を研ぐことがない人間ばかりになっていったのだということを。

こうして転生して三十半ばにもなり主に裏社会に蔓延る悪党達を相手にしてきた斎藤だが、分かりやすい悪党・・・日本以外ではギャングやマフィアなどと呼ばれて直接的に理不尽な暴力なりを使ってくる輩達を相手にするのは、斎藤からすれば簡単な事だった。そういう奴らの大半は数やら銃を頼みに人をなめてかかる者ばかりで、そうではない一部に限って言っても斎藤からすれば自身に遠く及ばないレベルの動きしか出来なくて簡単に行動不能にされていった。

しかし小賢しいと評した奴らに関して言うなら江戸末期からは到底考えられないインターネットを用いての犯罪だったり、決して自分達は表に出ずに配下を配下と思わせずに使って矢面に立たずに利益を食む者達といったような者達だったりと・・・直接的ではないからこそどう捕まえていいのかを考えて慎重に証拠を掴み、単なる実力行使で片付ける事が出来ない奴らを相手にする方が難しいというより、多少知識はインターポールの中で身に付けはしたが専門家に任せた方がいいと匙を投げるくらいには斎藤も面倒だと感じていた。

ただそれでも他の面々にそういった処理を任せて追い詰め斎藤の戦闘能力さえ発揮出来る状況にさえなってしまえば、そういった奴らの手応えの無さは一層の物であっさりと確保出来たのだが・・・時代に文明の進みかたが違うから人の在り方もまた違ってくるのは百も承知であるが、陰湿さに合理さはともかくとしてもやはり直接的な戦闘力の無さを斎藤は実感するのだ。

それこそ歴史には一切記載される事の無かったかつての敵であり、明治維新の影の立役者であると共に最大の暗部の存在だった男・・・志々雄という存在が今の日本を含めた世界を見たなら、こんなものなのかと失望して言うだろう光景が斎藤には想像が出来た。時代が移り変わり戦のやり方が変わったとは言え、銃やら飛び道具に頼り明らかに個人の力が弱いこの世界に苛立ちを見せる形でだ。

そんな志々雄がいたならこんな世の中だからこそ弱肉強食を掲げてそれを広めていくのだと動きかねないというように斎藤は感じた。強き者が生き、弱き者が死ぬべきだと今の時代・・・いや、世界全体に生温く広がる空気を否定するよう苛烈な行動を取るだろうと。

だが志々雄は少なくとも斎藤の知る限りでは確認していない上、存在して行動していたならそれを止める為に動くつもりでいる。いや、斎藤からしたなら誰が相手だろうと行動をする気はある。前世から掲げていた正義は形を変えてこそはいるが、本質は変わってはいないために。









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