揺れぬ正義を持つ狼の目 後編

・・・力なく弱い声ながらも、拒絶の意志だけはハッキリと明確に込められていると分かる言葉に新一は言葉を失わせる以外に無かった。それだけ小五郎が本気で自身を許す気はないと感じさせられた上で、その答えに文句も言い訳も言えるような立場にいない事は十二分に承知させられている為にだ。

安室はその姿を見た上で「こちらの伝えたいことに毛利さんの気持ちは伝え終わったから毛利さんはもう出ていくが、組織とこれからどうなるかはまだ分からないが君がどのような形であれここを出る事になった時・・・君は組織や毛利さんとの事など迂闊に誰にも口には出来ないし、それを悟らせてはいけない立場に立つことになる。後はその事を努々承知の上でどう動くか・・・真剣に考えていくことだね」と告げて小五郎と共にその場を後にしていって、新一はたまらずうなだれる以外に出来なかった。言っている事は理解出来たからこそ、もしこれからどうなるかはともかくとしてここから出た場合を考えれば、その時に小五郎に会うことに気が重くなるのを実感した為に。

・・・そうしてしばらくして安室達の行動があって組織の壊滅及び宮野の薬によって体を元に戻されて工藤邸に戻ることになった新一だが、その事を知ったというかたまたま工藤邸に来た蘭は嬉し涙を流しながら新一に抱き付いてきた。やっと帰ってきたんだねと言いながら、全身で喜びを表すように。

ただ新一はそんな蘭に対してぎこちない笑顔を浮かべるしか出来ずにいたが、そのような様子に構わず蘭が話を進める中に小五郎がまだ病院から帰ってこないと愚痴るようなトーンで話す言葉を聞いた時・・・内心必死で表情を変えないようにする以外に出来なかった。小五郎は悪くないどころかむしろ俺が理由なんだ、などと言えるはずもないということを悟らせないようにするためにも。

そんな新一は何とか表情には出さずにその場を収めて終わらせる事に成功したが、新一に会えたことを喜ぶ蘭はその日遅くなるまで工藤邸に残ってその精神を自覚なしにガリガリと削っていった。そしてその中で最も新一にダメージを与えたのは話をしていった中で、蘭が熱に浮いた目と顔を向けて何かを期待するような様子を見せてきたことだ。

・・・自分が蘭を異性として認識はしても、蘭が自分の事を異性として好きだとまでは確信していなかった新一は、その様子を見てそうなんだという確信を得ると共に・・・必死にここでそうなるわけにはいかないと理性を総動員して誤魔化すような行動で、そんなことにならないような空気に誘導した。前だったらそういった空気になったら自分も望んでいたことだからというのはおくびにも出さず、キザな言葉や態度でロマンチックに致そうとしていただろうが・・・その時の新一に本能を出せるような気持ちなど一切なかった上、キザに飾り立てるような言葉など出てこさせることなどもっての他だった。

それでどうにかして必死に場をやり過ごして蘭を帰した新一は苦悩に頭を抱え枕に顔を埋めて絶叫するしかなかった・・・自分が楽になりたいがために行動を起こすことなど許されるはずがないし、蘭を引き剥がすこと自体が難しいし想いを向けている相手にそんなことはしたくないという気持ちがあるからこそ・・・その気持ちを吐き出すための行為など、そんなことしか出来なかった為に。

・・・そうしてから少しの時間が経って多少は気持ちの整理がついた新一は外面を整えて誰かと接する事は出来るようになった訳だが、内心はその外面に反比例するかのようほとんど整っていない状況である。むしろ今となっては留年回避の為の課題に一人で取り掛かっている時が一番落ち着けるとすら思っているのだ。課題に一心不乱に取り組み、何も他に考えることもない状況に陥れる状態が・・・











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