揺れぬ正義を持つ狼の目 後編

・・・ここまで来てしまえば嫌でも新一も分かるというか、分からざるを得なかった。今のこの状態にまで追い込んだ新一に対して小五郎が快い気持ちを抱いているはずなどないだろうという事もそうだが、そんな新一と愛娘である蘭が一緒にいるのが気持ちいいかと考えて・・・有り得るはずがないだろうと。

だがそこで安室が更に追撃するよう「君が蘭さんに対して表面上はともかくどう少なく見ても異性として嫌っていないのは確実だと見ているが、それは蘭さんからしても同様だとこちらは見ている。しかし今の話を聞いて新一君が気まずさであったりから蘭さんから距離を取ろうとしたり、毛利さんから新一君や『江戸川コナン』に関わるのを止めろと言っても蘭さんは却って意地になって逆を取ろうとして来る可能性が高い・・・と斎藤さんが言ったんだ。そして同時に下手な誤魔化しの理由を用意して関係を断とうとさせるのは悪手になりかねないから、元の体に戻れたなら何もなかったとばかりに工藤新一には今までのようにしてもらい・・・毛利小五郎には療養を言い訳にせめてそんな二人と関わりを持つことが少ないようにしてやることが、まだマシな処置になるだろう・・・と言ったのが斎藤さんの発案だ」と言った言葉達に、新一は驚愕をしつつも否定の言葉を返せなかった・・・新一が蘭に対して想いがあるのは確かである上で蘭もまた少なからず悪くない想いを自身に向けている事は分かってはいるが、こうして小五郎に申し訳無いという言葉をいくら使っても足りないレベルの事を仕出かした罪悪感を考えれば、蘭と距離を取りたいと新一が考えるのは余程面の皮が厚くなければ当然ではあるが・・・この場にはおらずに何も報せてない蘭がそんな一方的に新一から距離を取られてすぐに了承する姿など、全く新一には想像がつかなかった為に。

と言うよりむしろそうすればそれこそ余計に蘭が何で何でと言い出してくるであろうというのは新一にも想像が出来た。そして曖昧な理由で茶を濁そうとしても納得しないだろうし、だからと言って本当の事を言うわけには到底いかない上に言ったとしたなら・・・色々と最悪な事態になりかねないことも有り得る。その中で最も最悪なのは蘭が新一のやっていたことを認めろだとか許せといったよう小五郎や安室達に言いに行き、組織の事が表に露見しかねないということだ。流石にそんなことになれば問題どころでは済まなくなる。

そういった危険性を考えるなら斎藤の言ったように組織の事は影に隠しつつ平然としながら戻ってきたとし、今までのように振る舞うというのが妥当だと新一も考えたのだが・・・だからこそ蘭がそんな新一と関わりを持とうとする姿を小五郎がいい気持ちになるわけないとなるのは分かった。そしてそれをあの少ししか接してこそいないが遠慮を知らないのではと思わせる態度を取る斎藤が、小五郎を哀れんで口を挟むという行動に出たのだと。

そこまで新一が考えた時に小五郎は虚ろな表情のままに声と顔を向けた・・・お前が蘭とどう向き合って付き合っていくかは分からないし、結婚するかどうかまで行くかも分からないが俺はそれを止める権利はない・・・だが俺はそうなろうとならなかろうと安室達との約束があるから表向きは何も言わないが、新しい暮らしに入ってもお前を許す気もないし俺からは一切お前と繋がりを持つつもりはないと。









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