揺れぬ正義を持つ狼の目 後編

・・・新一は安室達に赤井共々隔離の為の場所に連れていかれて以降は基本的にその部屋の中で過ごしてきたが、体を元に戻され解放される前に一度だけ部屋の外に出されることがあった。それは新一が部屋に入れられてから一週間少しといったところであって、その時は何だかんだで自分の事を戦力として頼りにして出してくれるんだろうな・・・という楽観的な考えを抱いたが、案内された先にいたうなだれて顔を見せないまま椅子に座っていた小五郎の姿を確認した瞬間、驚きにそんな考えはすっ飛んでしまった。

そんな新一に対して小五郎の隣に立った安室は何故ここに小五郎がいるのかの説明を始めた・・・元々から『江戸川コナン』が毛利家に戻ってこないとなれば心配した蘭辺りから捜索願いが出される事になるのは目に見えていたが、その事だけを誤魔化した所ですぐに『江戸川コナン』がいなくなった後の毛利小五郎という探偵の評価は依頼が来れば来るほどに落ちていくことになる可能性が高いのは明白であり、下手にその事で周りに騒ぎ立てられたならその沈静化もそうだが『江戸川コナン』は何処に行ったのかという問題になりかねない・・・ならばどうするのかと考えた結果として表向きは身体の数値において異常が見付かったという名目で病院に呼び出し、実はこういう理由で今まで工藤新一は動いてきた上で貴方を利用してきたということを人に聞かれないような状況で説明した上で、こちらの言うことに従ってほしいと話すと小五郎が頷いた為にこちらに連れてきたのだという説明を。

それらについて聞かされた新一は唖然としたがすぐにどうしてと小五郎に聞くのだが・・・そこで顔を向けた小五郎の表情は虚ろとしか言えない物で新一はたまらず体を震わせたのだが、そのままの状態で小五郎は話し出した。自分が調子に乗りやすい性格なのは自分でも分かっていたし、チヤホヤされることに気分が良くなっていたということを差し引いても・・・自分がこの数ヶ月間で全く新一のやってきたことに気付けず、操り人形として都合良く踊らされ続けて来たことを知らされ今までにない程に自己嫌悪に陥った上で、『江戸川コナン』という存在がいなくなれば自分はもう操られた名探偵ですらいられなくなる事に気付いて、もう自分がどうしていいか分からなくなったから安室の言葉に頷いたのだと。

そんな覇気はおろか自信など微塵の欠片もない小五郎の言葉と声に新一は軽口を叩くこともそうだが、言い訳を口にすることなど出来る筈もなく愕然とするしかなかった・・・赤井と共に連れていかれた際の話で聞いてはいたが、それでもこんな風にいつもの小五郎が見る影もないような生気のない姿になったことに、それだけ自分のやったことが衝撃的だったのだという実感をいやが上にでも身につまされる形でだ。

そんな新一の姿に説明した最初の頃こそは嘘だにデタラメだといった言葉でいつも会っていた時のようにいたが、公安にインターポールといった機関が関わるばかりか阿笠に優作達までもが新一に協力していた上で、優作達に関してはインターポールよりの取り調べで偽装死亡の為の死体を用意したことに関して知っていて、それを新一の為に小五郎を利用していること同様に突き通そうとしていた・・・と一連の事についてを話していくと段々と勢いが失われていき、特に優作達が新一の為に小五郎を利用することを黙認していたというのが嘘ではないと知らされた辺りでもうこれくらいに小五郎がなったと安室が言うと、新一は顔から血の気を引かせるしかなかった。どう話を都合良く解釈しようとも仲が悪くなかったどころか良好な関係だった筈の優作達から、そんな事など知らないとばかりに息子の為に何も言われることなく利用されていたという衝撃が小五郎にとって相当だった・・・と理解してしまった為に。









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