揺れぬ正義を持つ狼の目 前編

・・・最初、安室は何故小五郎と話し合わせるのかと疑念を隠す様子もなく斎藤にぶつけた。そんな必要ないのではないかと。しかし斎藤から返ってきた「組織がどうなろうと工藤新一の体が戻らなかろうと、あれを調子付かせない為には必要なことだ。特に組織を壊滅させることがその時に出来てなかった場合、奴が頼れるのは毛利家か阿笠のどちらかしかなくその阿笠も工藤新一に協力したことにより捕縛は確定している・・・となればやるべきは『江戸川コナン』を無条件でまた受け入れかねない上に事情を聞けば工藤新一に寄りかねない可能性が高い娘より、探偵という職から沈黙してもらう上で離れてもらわねばならない毛利小五郎に受け入れるなど有り得ないと言わせた方が、断然に気持ちをへし折る効果は期待出来ると見てだ」・・・といった言葉に、安室は唖然となる気持ちを持ちながらも返す言葉もなく納得するしかなかった。

特に小五郎が新一を受け入れるといった部分に関しては、ある程度探偵という職から離れるための下準備をしなければならないのは確かではあるが、新一同様公安で小五郎の身をいつまでも預かるというわけにはいかないということが大きかった。そして更に言うなら小五郎には蘭という娘がいて、まだ別居という形にあっても離婚はしていない妻の英理がいる立派な大人である。

今現在の新一は学校を休校中でどこか事件の調査に行っていると見られているが、そこについておかしな点が多々あることは置いておいて小五郎に関してはそんな娘と嫁がいて、探偵というれっきとした職に就いている大人なのだからいつまでも表舞台に立たずに行方不明のままでいたなら不審がる者が出てくるだろう・・・といったように考えれば、公安からすれば小五郎には一定の事情の説明をした上でそれらについての沈黙の約束を取り付けること及び、別の職に就く為の段取りを組めれば早く一般社会に帰した方がいいのが確かなのである。

・・・しかしそこで組織を壊滅させることが出来ず、かつ元の体に戻ることが出来なかった新一が誰に真っ先に助けを求めるのか・・・そう考えれば、真っ先に候補に挙がるのが毛利家か阿笠の二つになるのである。

ここで自身の両親に頼らないのかというのは先程散々言ったことから公安ではなくインターポールが動いていることから、まず確実に手が入るだろう事くらいは見通すだろうと見てである。となれば残りの二つの選択肢のどちらかになるわけだが、阿笠に関しては同居している灰原という女の子共々新一に協力していたことから、少なくとももう阿笠は日の目を浴びるような生活に戻さないことは確定済みだ。先の話に出ていたスケートボードのような無許可での改造品の数々を新一の為に作っていた事実を用いれば、これは容易な事である。

となれば残るは毛利家になるが、前述の通りに蘭を引き込もうとした所でとてもではないが安室や斎藤達の言うことを聞かないばかりか、勝手な行動を取りかねない事を考えれば・・・先に小五郎に新一と会って話をし、それもまた毛利家に入り込みにくる可能性も有り得るからこそそれを潰した方がいいと斎藤が考えて発言したのである。

・・・そこまで聞いて安室は斎藤の言葉に反論が出来なかったのだが、同時に今の状態で新一が頼れるのがもう毛利家しかないからこそとも言われた時に、ハッキリそうするしかないという結論を出さざるを得なかった。選択肢はまだあるかのような話になっていたが、そもそも『江戸川コナン』として頼れるというか事情を報せず入り込める場所など毛利家以外にはない上、組織を追うのに適した環境でないところなど新一が気に入るはずもそこに居所と定めるなどないだろうからこそ、毛利家に入り込ませないためには小五郎に話をした上で新一の心を折らせるべきだろうと。









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