揺れぬ正義を持つ狼の目 前編

・・・蘭の事を悪く言いたいという気持ちは安室にはないが、それでも蘭が感情で物事を判断して発言する癖があることはこれまでの付き合いに斎藤の言葉から否定が出来なかった。そしてそれが正しいと思っているだろうことも。

その上で感情から物事を判断する傾向がある人物に多い特徴として、自分がこうしたいにこうだろうといった考えを優先させたいという気持ちがある上でそれで成功してきたという自負がある・・・現に何度か新一は毎度毎度運の巡りかたが良かったことや味方がいたことから自分の正体がバレそうになったことを誤魔化すことが何とか出来たが、ギリギリまで蘭が新一の正体に近付いた場面は自覚の有り無し関係無く何度もあって、その度に新一をヒヤヒヤさせたものだ。

そういったある種の運の巡りだったり勘めいた物を勘という自覚はなく理屈だと考えて頼りにしてきた蘭が、新一と小五郎関連の事で自身がこうしたいからにこうすることが正解だと動くこと・・・それらが起き得ると考えさせられた時、安室は蘭を信じるという選択肢などとても選べないと判断するしかなかった。下手をすれば組織が壊滅してもいないのに自分が公安だとバラされ、そこから自分が殺され公安の手から組織がすり抜けてしまうという最悪の結果も有り得ると。

・・・だからこそ安室は選んだのである。小五郎はまだ操り人形として操られていた分から話をすれば新一への怒りも浮かんで引き込みようは大いにあるだろうが、蘭は様々な危険性を考えればとても話をするべきではないから蚊帳の外に置いた方がいいという結論を・・・






「ま、娘に関してはそうして黙っておけばいいが・・・もしあの小さくなったという体が万が一にも元に戻れたとした時の事も含め、先に話をしたよう毛利小五郎と工藤新一の顔合わせに話は早目にさせておけ。今でも大分堪えてはいるだろうが、工藤新一の性格上いつ前向きな気持ちに切り替わるかも分からんから、出る杭は打たれると言うが早目に杭が出る前に地面に埋め込み土をかければ見えなくなる程に叩きつけておいた方がいいのは目に見えているからな」
「・・・分かっています。新一君の為にもそうしなければならないことは・・・ですから毛利さんに説明が終わり次第そうするようにしますよ・・・」
そんな苦心の様子に構わず蘭はもういいと次の話題として二人の対峙についてを言葉にしていく斎藤に、安室は理解しているしちゃんとやると力なく返すしかなかった。もう理解はしても心では納得しきれてない事を隠せないままに。






・・・そもそもの話として蘭や小五郎にその他の人々に関してこれだけ考えて打開策を練らなければならないとなったのは、話に出したような新一のワガママからである。誰かの手助けは借りたくないけど自分でどうにか状況を整え、手助けを受けるのではなく手を貸してほしいというあくまでも自分主導で行動したスタンスを保ちたい・・・というワガママからの。

それでそんな新一を赤井共々捕らえた訳だが、百歩譲って赤井は身代わりの死体の件を口実にすれば表立ってとは行かずとも獄に繋いでしまうことは可能である。しかし新一は今の『江戸川コナン』と名乗ることになった小さくなった体の事を考えれば、刑務所どころか少年院にすら入れる事は出来ない状態にあった。

何せ少年院は保護者や家族からの許可があってギリギリで十二の歳の子どもが法令として許可が出る年齢で入る場所であって、今のどう見ても十未満の体の新一では少年院に入れる事は出来ないのだ。なら新一をずっとどこかで監視下に置いて暮らさせる事が出来るかと言えば、どんなに長く見積もっても一年が精々という所だ。これは公安預かりの案件となるのは当然の物ではあっても、体は小さな子どもの面倒をずっと見るというのは公安の仕事とは到底言えない領域にあるものと言える。表立って追うことも捕まえる事も出来ない者達を裏で犯罪まがいな事をしてでも追って捕まえるのが公安の仕事なのだから、本来は子どもの面倒を数ヶ月単位で預かって見るなど公安の役割ではないのだ。

その為、インターポールと公安が組織を壊滅させる事がこの一年程度で出来なくてもだが出来て元の体に戻れたとしても、工藤新一を条件付きでにはなるが放り出すことは確定事項ではある・・・しかし今までの経緯を考えればその条件の中に一つ確実に入れた上で、やっておいた方がいいものがあると斎藤は安室に告げた。それが小五郎と新一の対峙及び話し合いという名の弾劾である。










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