いつかを変えることの代償 終幕(前編)

「おじ様はそう思うかもしれないけれど、おば様から本気でそう切り出すっていうか完全にそうした方がいいっていうような心積もりはまず無かったから、それで良かったって意味も含まれてるのよ?」
「・・・英理が俺に本気で離婚を切り出すつもりはなかっただって・・・?」
「おじ様が離婚を切り出した経緯については蘭から聞いたけれど、おば様からしたらおじ様が離婚を本気で切り出すなんて思わなかったからおば様は離婚だって軽く言ったと私は思うわ。それこそ今さっき似たような事を言ったけれど、おば様からしたら自分の元に頭を下げに来て謝ってくるような姿勢を待ち望んでたから離婚を餌にしておじ様にそうさせようとしてたって・・・でもそれでおじ様はそれで本気に考えて、揺るぐことなく離婚をするって言って復縁を切り出すことはなかった。多分おじ様が生半可な覚悟だったり勢いだけで離婚を突き付けてたなら、おば様は逆におじ様をなじるような事を言ってたと思うわよ?貴方の考えはその程度なのってね」
「あ~・・・確かにそうかもな・・・離婚を切り出した時に逆に焦ってた様子だったのを思い出すと、あながち間違ってねぇかもしれねぇな・・・」
園子は英理が離婚を本気で考えていた訳ではないからこそ良かったと言い、小五郎はその中身に否定する要素はないと納得する。






・・・以前英理が弁護士になりたいと言い出して互いの考えが平行線を辿っていったことから、別居という流れになった。しかも英理は毛利の姓を名乗らず、元の妃という姓を名乗る形でだ。

そこまでする念の入れように加え、生来の意地っ張りな性格から小五郎は英理への気持ちは残るものの、半ば強がりの気持ちで英理と元の鞘に戻ると切り出すことを拒んだ。それでも元の夫婦という形に戻りたいと言い出した時に拒否を返され離婚を突き付けられれば、もうかろうじて夫婦という形で繋がっていた縁さえ切れて完全に他人になるという可能性が高いことからそれは避けたいと感じてもいたために。

しかし園子はそれは違うと言った。英理が小五郎との離婚を望んでいなかったと。






「おば様はおじ様に甘えてたのよ。何だかんだ言いはしても自分と別れるような事は本気では切り出しはしないし、おじ様も自分と同じでまた一緒にって気持ちが残ってるから大丈夫だってね。でもおじ様はそんな風には考えなかった」
「あぁ・・・蘭が結婚して俺の元から離れて、一人の時間が長くなった俺の中でもうそんな風に英理と喧嘩しては別れ話になる・・・なんてのを繰り返すなんてのはもうキツくなってきちまってた。それに仲が改善されていってきてたのにそれをぶち壊すような事を俺から言っちまった事から、もうどうにか元の鞘になんて事をしない方が英理の為にもなるって考えちまった・・・」
「そしてその結果がさっき言ったような事なんだけれど、もし離婚ってなってなかったら似たようなことの繰り返しに更にプラスして蘭達の事も加わってたでしょうね。そうなったらおじ様もそうだけど、強がりはしてもおば様も蘭達の事で色々と頭を悩ませてキツい状態になってたでしょうね。自分達と同じ状態を蘭達に繰り返させたくないだとかって考える形でね」
「・・・そう考えりゃ、俺から離婚を取り下げるつもりはないって切り出したのは間違いじゃなかったって事だったって事か・・・」
更に園子は英理の甘えについてを口にした上で離婚していなかったらどうなっていたかの仮定を述べていき、その中身にまた小五郎は重く受け止め納得する。






・・・英理の甘えと園子が評した態度。これは間違いではない。何だかんだ色々と喧嘩をしてはきたが英理の中に、小五郎に対する気持ちが強く残っていたのは事実だ。

しかしそれを相手が悪いと考えてほとんど表面上で態度にしなかった上に、自分が悪いと思っても自分から頭を下げるのが嫌だという高いプライドがあったことから英理は小五郎に素直な態度を取れなかった。

そうして長い間別居期間を経るのだが、小五郎の心境に大きな変化が現れたことが二人の関係を終わらせることになった。この辺りは普段から小五郎と接するようなこともなくてその変化に気づけなかったのもあるが、英理がこの状態がずっと続くと心のどこかで感じていて英理の心境に変化がなかった事も一因と言えた。

・・・小五郎と英理。二人の関係の終結についてどちらかが一方的に悪いと言えるような物ではなかった。強いて言うなら英理が変わらなかったことが決定的な一因となった、という結果が残ったのである。小五郎が真剣に離婚しなければならないと考えた時同様、英理が自分から頭を真剣に下げて謝ればどうにかなったかもしれないという結果が。









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