揺れぬ正義を持つ狼の目 前編

「それは当然だろう?こっちはインターポールの人間だなんて言って、自分の立場を明らかにして目立つようなつもりなんてないんだ。一部の人物は自分の立場についてを普通に明かしているようだが、そういったのはかなり特殊な人物といっても差し支えないからね」
「・・・あ・・・」
斎藤は新一に少年に優しく語りかけるように話し掛けるのだが、その中身に新一はある人物を小さく声を出して思い出す・・・前の事件で出会ったカーキ色のコートを着た世界一の泥棒を専属に追い掛けているインターポール所属の男であり、やたら色々と自己主張の強かった人物の事を。
「だからこそこっちはインターポールの捜査官に就いているということは言わないよう、そして言われないように彼にお願いしていたんだよ。と言ってももうここまで来たからには黙る理由はないんだけれどね」
「・・・黙る理由がないとは、どういうことでしょうか?まるでその言いぐさではもう秘密にする必要はなくなったように聞こえますが・・・」
自分はそんな人物とは違う。そういったように言葉にしていく斎藤に対して、赤井は口調だけは『沖矢昴』としてながらも緊迫した空気を漂わせる。
「・・・警戒するのは構いませんが、こちらはもう貴殿方の正体は把握していますよ?FBIの赤井秀一さんに、高校生探偵の工藤新一君?」
「「っ!?」」
だが斎藤がそんな空気に微笑を浮かべ口にした二つの名に、両者はハッキリと驚愕に目を見開かせた。
「・・・FBIの赤井秀一?すみません、私の名前は沖矢昴ですが・・・」
「・・・フン」
‘ダンッ!’
「「っ!?」」
だがすぐに赤井は何のことかと空とぼけようとしたが、斎藤が面白くなさそうに声を漏らした瞬間勢いよく右手を前に出して一足飛びで赤井の元に飛び込み二人は目を見開くのだが・・・



‘ゴッ!’



「がっ・・・!?」
「っ、昴さん!?」
・・・次の瞬間に赤井は避ける間もなく右手で頭を掴まれ、続けざまに斎藤は空いた左手で軽く浮いた体の右手を掴み勢いよく背中から床に叩きつけた。その痛みに赤井がたまらず苦悶の声を漏らす中で新一が駆け寄ろうとするが、斎藤は構わずに右手を赤井の首元に持っていき・・・



‘バリッ!’



「っ・・・!」
「・・・成程。やはりその顔の下はお前だったか、赤井」
・・・『沖矢昴』として造っていたマスクを躊躇いなく指をかけて顔からひっぺがし、新一が唖然とする中で苦痛に顔を歪める赤井の表情に安室が冷めた表情を浮かばせその顔を見下ろす。
「・・・やれやれ。痛い目に会いたくなかったらもう少し素直にしていれば良かったんだがな」
「ぐっ・・・!」
「っ・・・!」
だが斎藤はそこから構わず痛みに苦しむ赤井の体を素早くうつぶせの形にしてその右手を腰辺りに置いて左手で体重をかけて拘束するのだが、新一は拘束に衝撃を受けるよりも何よりも・・・斎藤の口調もだが、その目付きが細い事に変わりはないが今までと違い迫力を感じさせる物に変わったことに息を呑んだ。今までに会ったことも見たこともない、狼のごとき迫力に。









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