得られた平穏と望まぬ平穏の二つの平穏

「というか多分高校卒業してもうちに帰ってこないんだろうな、新一・・・まぁ父さん達は気にするだろうけど、仕方無いって思いもするんだろうな・・・もう新一が戻ってこないことはさ」
そうして山岳は続けるよう一人言をポツポツと呟いていく。新一と家族のこれからの関係についてに。






・・・新一に対する印象は決していい方ではない山岳だが、それでも新一が性根が悪い人間ではないことは承知はしている。その事に関しては両親も知ってはいるが、小説を書いていることもそうだが東京の高校に一人で通いたいと言い出した時にはかなり長い時間を説得に費やし、山岳は正直うんざりというか好きにしてやればいいんじゃないのとしか思っていなかった。新一が考えを変えることはないだろうと見てだ。

そうして話し合いは新一の言うようにするとなったのであるが、両親に関しては親としての責任感があることや悪い子ではないという意識があることから今でも新一の事を気にかけているが・・・それもそんな風に気にかける状態は長く続かないだろうと、山岳はボンヤリと感じていた。原因はうまく隠しているとでも思っている実家に帰りたくないという気持ちが山岳からは見えているからだ。

山岳は理屈ではなく直感的に物を考えるからこそ、そういった気持ちを感じ取っていた。新一は実家に帰りたくないと思い、そして高校を出たなら冠婚葬祭レベルの事が無ければ年末年始にお盆といった長期休暇となる時も帰ろうとせず・・・そんな新一の事を両親達も見放すとは言わずとも、声をかけるのは余程でなければ止めていくのではないかと。

両親が人がいいとは言っても、声かけをしても帰ってこない・・・それも問題行動を起こしたという連絡がないし、立場的に成人というものになればもう人がいいとは言え干渉をしようと思うのを止めるだろう。新一としては高校に入った時からそうなってほしかったのだろうと山岳は見ているが、それでもまだ成人という年齢ではないのだから両親は口出ししたくなるのは当然だと言える。

ただ高校の時からそう続けていたとなれば、そして時折でも帰ってくる様子もないし連絡もしてこないとなれば・・・いかに両親でも気持ちはあっても、連絡を取るであるとか家に向かうだろうというのは止めるだろうと山岳は見た。実際両親は新一のアパートに何度か用事があった時もない時も笑顔で訪れたと言っていたが、あれこれ言われるのを嫌だといったような態度を見せられた事から両親が訪れるのは止めにし、兄弟でありそういったことを言わない山岳に用事がある際にそちらに行くようにと頼んできたのだ。

それでそうして新一と顔を合わせるのは山岳の役割となっていったのだが、新一は表向きは山岳を歓迎はするものの親からの使いとして来ているということからあまり長居してほしくないと思っているだろうことや、自分も新一の為になど時間を使うより山にロードで登る時間を取られたくないということから用事があるから行くでそれが終わればはいバイバイ・・・というマイナス方面での意見の合致をさせて再会の時間を終わらせるのが常だった。

・・・新一に自身を含んだ家族への想いがないとは言わないことを山岳は感じている。しかし新一が家族や自身にも理解出来ない何かを持っていて、その為に距離を取りたい気持ちが圧倒的に強いことも感じている。だから山岳はもうこれでいいと思っていた・・・新一が帰ってこなくなり、それを両親達は受け入れる展開になるであろうことは・・・









.
19/21ページ
スキ