得られた平穏と望まぬ平穏の二つの平穏

「・・・ふぅ・・・取り敢えず一区切りだな」
・・・そうしてしばらくの時間が経ち、自身の満足する所まで行けたことに新一はデータを保存した上でパソコンの電源を落とす。
「・・・はぁ・・・蘭・・・」
ただそうしてふと思い出された前世の妻の事に、たまらず新一は疲れたようにその名を口にした。想いがあることを隠しきれていないままに。






・・・一応推理が出来ないということに関しては小説を書くことで何とか自分の内に収めてはいる。今生での人付き合いも今の形でいいと思っている。しかしそれでも自分を理解してくれたり、側にいてくれる人がいてほしいと新一は思っている。

今現在は特に仲の良い友達も意中の異性もいない新一だが、元来新一は妙なことに縛られない気ままな生活をしたいとは思ってもずっと一人で生きていけるようなタイプではない。むしろ自分の事を理解してくれたり、話を聞いてくれるような誰かと共にいたいと思うタイプであると共に・・・よく言えば気になる異性には一途で、悪く言うなら理屈を持って考えるのではなく感情が赴くままにこだわって引きずる人間だった。

その為に新一は前世で妻となった小五郎の娘である蘭の事を思わずにはいられず、もしこの世界に生まれ変わっているなら他の誰より何より蘭と再び会いたくて、また同じようにくっ付けないかと考えていた。蘭なら自分の事を理解しているし、共にいてくれるだろうと。

・・・だがそうして蘭もそうだが、他の者を待ち望んでも新一を求めに現れる者など誰もいない。しかしそれでも小説を書いて保っている自分の気持ちを更に楽にするためには、事件に出会うか前世で出会っていて自分と共感出来る誰かが新一は欲しくてたまらなかった。

しかし唯一この世界に存在する小五郎は新一の垂らす釣り針を悪いものを見たとばかりにスルーした上、もし会うことになったとしても拒否をされることはまず間違いない事だろう・・・新一自身はおっちゃんが顔を見せなくなり会わなくなったことは自分がヘボ探偵に戻ったことを見られたくない意地からだと思い、蘭にもおっちゃんには意地があるんだから放っといてやれよと言って自分と共感出来るような人物ではないというのもあるから距離を取ったのだが・・・年月が経ち施設で死んだ事もそうだが、葬式すらあげずに簡略に火葬されたことをその後に蘭共々知ったのだ。

そんな事になったことに蘭と共にその処置を済ませた英理の元に新一は向かったのだが、本人の意向からそうしたということを聞かされると共に・・・ここ最近どころか数年単位で会っていなかったのに、あの人の最期となった頼みにケチや文句をつける権利などないと言われた時に蘭もそうだが新一も返す言葉はそれでも一言くらいは・・・というように、英理の冷ややかな様子もあって言うしか出来なかった。

・・・この時もそうだが以降も英理が亡くなるまで、新一は何故そんな冷たい態度を自身らに取ったのかということをついぞ聞くことが出来なかった。ただ単に機嫌が悪かっただけなのか、それとも自分達が今更になってようやく小五郎の元に来たことにどうかと思っているのか、もしくは英理の気持ちが一気に冷めるような何かが起きてしまったのか・・・それをハッキリさせてしまえばどうなるかということを、敢えて考えないよう聞かないようにして目を背ける形を取ってだ。

この辺りは前まではある程度友好的だったはずの英理が、何故いきなり好意が嫌悪に変わったのかの原因をハッキリさせたくないという新一の知らず知らずの甘えであった。自分が英理もそうだが小五郎にももしかしたら快く思われていなかったのではないかと、今そうだとハッキリ知ってしまったなら、小五郎がもう亡くなっているのもあってどうしていいか分からなくなるという・・・推理をする時とは違って自分達が責められたくないし、悪者になりたくないというもしもの何かがあった場合の一種の逃げだ。

・・・話は多少ズレたが、今となっては小五郎でも英理でもいいからと新一は昔を知る者にすがりつきたい気持ちを持っている。だが小五郎は今でも新一に対していい想いなど抱いていないし、今の平穏が崩れることなど望んでいないのだ。新一は平和であることはいいことだというよう表向きの言葉では言っているが、その実は真逆の自分が推理を出来るような混乱など・・・









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