得られた平穏と望まぬ平穏の二つの平穏

‘ピロン’
「なんだ、誰からだ?・・・遊びに行かないか、か・・・悪い、忙しいから無理と・・・」
・・・そうしてカーテンを締め切った暗い部屋の中でパソコンと向かい合い、キーボードを叩いていた新一。
そんな中でキーボードの横に置いていた自身の持つ携帯にメッセージが届いたことに手を止め携帯を操作していくが、中身を確認してすぐに躊躇なく断りの返事を返した後に携帯を置いてまたキーボードを叩くのに集中していく。






・・・そんな形で小説を書いている新一だが、一応今はまだ高校三年生という学生の立場にある。故に今行っている高校でのクラスメイトとの交流はあるわけであるが、言い方を選ばずに言ってしまえば広く浅くしか新一はクラスメイトとは交流してこなかった。

そしてそうした理由は何故かと言えば言い方は悪くとも、自身にとって心を震わせる経験をさせてくれる者・・・ズバリ言ってしまえば、事件と巡り会わせてくれるような運回りや立場を持った者がいなかったからだ。

何故か今生ではあれだけ出会ってきた事件・・・それも自身でなければ解けないような難事件とは一切出会えなくなり、新一はどうしたものかと考えるようになっていた。そしてそういったことから神奈川から東京の適当な規則だったりが緩い高校を選んで進学した訳であるが、そうして東京に出ても事件に出会いやすくなるなんてことは一切なかった。

ただそれでも事件に会えないものかと高校の始めの内は持ち前の人好きのする顔で周りのクラスメイト達にも色々と探りを入れたりしたり、連絡先を交換したりしたものだったが・・・それらは全てことごとくハズレで精々得られた副産物が何かと言えば、同年代として接しているクラスメイト達から時折来る遊びの誘いくらいであった。

そんな結果に対し、新一は流石に全て断るのは悪いしもし何か動いていたなら事件と巡り会える可能性もあるからと、気が向いた時だけ今日バイトないから行くと返す形でクラスメイト達と接してきた。ただそうして接してはいくものの本来期待している事件など起きることがないのが常なので、五回に一回行くくらいの頻度でしか新一は遊びには付き合わなかったし・・・自分から誰かを誘うようなことは一度もなかった。

・・・誰かを遊びに誘うような事をしなかった。これは新一としては自分は実際に生きてきた年月としてはもう老人だというように考えているのもあるが、単純に自分の趣味と合うような人物が周りに誰もいなかったからでもある。

前世では似たような立場だったり行動を共にしてきた人物は何人もいて、それらの人物とはよく話に花を咲かせてきた。その内一人は大阪という遠く離れた場所に住んでいるのにも関わらず、当時の同学年で一年以上共に過ごしてきた仲間より遥かに早くて深く仲良くなる形でである。

それに新一からしたならスポーツは好きではあるが、それ以上に好きなのは謎やそれを解くための推理が出来ることにある・・・故にこそそれを理解しあえる者達との交流はその他諸々といった者達との交流より心踊る物であったが、今生では自身と同レベルとまでは言わずともある程度の境地にいる者すらいなかった。だからこそ年月を経た経験も重なり、推理についての興味を持たない者達を誘うことなどしなかったのである。

・・・しかしそれでも遊びの誘いが来るくらいには新一の印象は周りからしたなら悪くないものではあったのだが、あくまでそれはグループで遊ぶけどもう一人くらい誘わないかみたいな時に新一なら別に断るだろうし、断られないならそれで遊べばいいかという程度で誘われるくらいのものなのである。だからこそ新一に悪印象を持っている者はそういないのであるし、新一から誘われなくても問題はないのだ・・・言ってしまえば新一は感じはいいだけで深く付き合う必要もない存在だと同級生から思われているのだ。

まぁこの辺りは新一も深く関わる気もないので、ウィンウィンといった所だろう・・・ただ新一には敵はいない代わりに仲間もいない孤独な状態であるのだが、新一からすればもうそんなことを気にする余裕などないのである。









.
13/21ページ
スキ