得られた平穏と望まぬ平穏の二つの平穏

「な、なんだよその目は・・・」
「ぶっちゃけうちに帰りたくないだけでしょ、新一。父さん達と会うの気まずいとかそんな感じに思ってさ」
「っ・・・そ、それは・・・」
新一はたまらずそんな目を向けるなと言わんばかりに返すが、山岳がそのままの目で単刀直入に口にした予想にたまらず言葉を濁した。
「分かりやすいよね、気まずいって自分で思ってるってさ。でもさ、俺が言っていい言葉かどうか分からないけどこんな生活をしたいって無理して切り出したの新一なんだし、百歩譲って自分が小説のお金から払ってるって言ってもワガママでこうしてるんだから、今すぐじゃなくても実家に帰って話をしなよ。父さん達は面倒だって思いはしたっていっても帰ってこないのは寂しいって言ってるんだからさ~」
「っ・・・分かってるよ、それは・・・」
その反応を当たりとしながら話をしていく山岳だが、口にされていくその話の中身に苦々しく分かっているがそうしたくないという気持ちを滲ませていた。






・・・山岳との関係に関しては新一としては理想の関係になりはしなかった。なら今生の両親との関係はどうなのかと言えば、ハッキリと言えばよくも悪くもないというのが精々な所だった。そしてその理由が何かと言えば、新一が実家を離れて暮らしたいという気持ちを押し通した事からだ。

新一は前世では小さな頃からなりたかった探偵となり、小五郎の娘と結婚して子どもが出来て自身が死ぬまで誰にも恥じることのない生を送ってきたと思っている上で、今生でも同じような生活を送りたいと思っていた。探偵として誰にも頼られ、事件があって謎が存在するならそれらを推理して解決させるという生活を。

しかし今生で生まれた真波家は精々山岳の為に生活苦にならないレベルでロードバイクを用意出来る少しランクが高いくらいの中流家庭で、前世のように父親が警察に縁もあって世界的に名の売れた小説家で妻はかつての名女優というようなビジュアルも金も桁違いな上流家庭とは縁遠い上に、警察との関わりも一切ないまさしく一般市民と言ってもいい家庭環境であった。

それに加えて神奈川という比較的東京に近い場所に住みはしているものの、自分という探偵が必要とされるような事件に関しては幼い頃からの生活で出会ったことなど全く無かった。自分から事件があったと聞き付けて向かっても前世のような何らかのトリックを用いての殺人や放火などといったことなど一切痕跡すら見えないばかりか、そもそも一般人扱いされて事件現場に入れないことしかない扱いしか取られることは無かったのだ。

だからこそ新一としてはこのまま事件の関わりの低い神奈川にずっといるより東京に行くことを考えたのだが、それで早く東京に行くにしたところで高校生では寮生活をするのが普通なら精一杯で自由に探偵として使える時間もないし、仮に一人暮らしをしたところでアパートの家賃を始めとした諸々の経費が真波家に重くのし掛かる事になる・・・そういったことを将来的にしたいと考えた時に中学生の新一が何をしたのかと言えば、出版社への推理小説の持ち込みであった。

これに関してどうしてそんな発想になったのかと言えば、単刀直入に自分で金を稼ぐために自分ならどうすればいいかと考えた結果である。小説ならいくらでも読んできた上で推理小説のネタになるような事件にトリックは前世で様々に見て解決して覚えているからネタには事欠かないし、何より工藤優作という稀代の小説家の息子だったという自負がある・・・そういった考えから新一は自作での小説を書き上げて出版社に持ち込むのだが、その結果として出版社からすぐに新一の小説を発売するようにするとなって実際に発売してみれば瞬く間にとまではいかなかった物の、この小説は面白いと脚光を浴びることになった。この辺りは推理や小説関係には縁があると共に、引き出しのネタや表現力の多彩さにどういった風な書き方をすれば面白いと感じやすいかを知っていたのが大きかったと言えるだろう。

そしてそれで今後もまたうちで小説を出してくれないかと出版社から言われてそれを新一は了承するのだが、その裏で両親達には小説での稼ぎは全部俺に入るようにしてくれというのと、高校から東京でアパートで一人暮らしをしたいと言った時・・・真波の両親からはそれはそれは反対されたものだ。子どもの一人暮らしは早いし、寮で暮らせばいいだろうと。

しかし新一はその両親を強引に説き伏せる形で一人暮らしに小説の金を自分の懐のみに入れるというように出来たのだが、その時の強引さで流石に我を通しすぎて両親に悪いという気持ちがあって新一は実家に帰りづらくなっているのだ。両親からはたまには帰ってくればいいのにという言葉が来ても、出来る限り用があるからと避ける形でだ。









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