得られた平穏と望まぬ平穏の二つの平穏

(・・・ホント、俺には勿体ねぇ二人だよな・・・)
・・・そうして三人で昼食を食べた小五郎は、午後からは部活に行くと競技用の服に身をまとってロードバイクに乗って出掛けて妻が少し近所の人に呼ばれたから出掛けてくると、居間で一人になった家の中でしみじみと感じていた。今の自分が幸福で満ち足りているという実感を。
(だからこそ俺はあの二人の為にも頑張りてぇ・・・もうあんな前世みたいに自分の実力を勘違いするのもそうだが、仲違いを起こしたりなんかしねぇ・・・だから俺は二人の為にも生きていく・・・坂道があんな風に頑張って、それを妻が育ててくれたんだからな・・・!)
だからこそ小五郎は改めて強く決意を固める。二人の為に生きていく・・・二人に報いる形でと・・・






・・・妻の勧めで東京暮らしを始めた小五郎は、最初こそは今のように時間を空けて帰るなどという事はせずにちょこちょこと帰ってくるなどしていた。やはり妻や坂道の事を心配してだ。

そんな二人はその小五郎に無理はしなくてもいいと言いつつも笑顔で返し、坂道に関してはオタク気質な部分が小さな頃から見え出してはきたが純粋で優しい子どもに育っていくその姿に、男ならこうあってほしいだとかオタクなんか男らしくねぇだとかいったような考えは吹っ飛んでしまった。言葉より手が出るようなタイプは前世の娘で経験してきたし、我を通そうとするのではなく謙虚な姿勢が小五郎の身には染み渡ったのだ。

それにたまにしか会わない小五郎の事をちゃんと坂道は親として認識していた上で、お父さん大好きと言ってくれたのだ・・・その時は親バカと言われようがなんだろうが関係無いという気持ちを抱いたものであった。例え前世と違ってタバコにギャンブルはしないようにし、酒も勧められた時くらいしか飲まないようにして生活の態度を改めていたからというのも理解してはいてもだ。

ただそんな坂道の成長した姿を見た小五郎に対して妻が「ね?大丈夫だったでしょう?」といったように言ってきたことや、小学生になるくらいの事だったから頻繁に帰るのは無しにして長期休暇の時に帰るくらいにしたのだ。

それでそうして暮らしていく中で、成長した坂道がアキバに興味を持ち出してきたことに加えて電車の金を節約する為に自転車で週末にアキバまで来るようになっていくのだが、幸いにというか小五郎の住んでいる場所はアキバの近くであったために坂道はその時には小五郎にも会いに来るようになった。

そんな坂道に小五郎は最初は大丈夫かといったように心配していたが、自転車でここまで来るのも楽しいしお父さんにも会いたいから・・・と言われたことでたまらず小五郎はなら今日は俺が欲しいものを買ってやると言い、共に出掛ける形で電化製品売り場に行ってアニメの録画用のレコーダーを買ったのである・・・まぁその時は流石にいきなりすぎだと妻には言われ、そこは小五郎も衝動的過ぎたと反省した。

ただそんな風にアキバまで来るようになった坂道の自転車の実力から、予想だにしない形で自転車競技部で活躍してインターハイの優勝という報せを受けたのだが・・・小五郎にとっては望外の喜びであり、実際に話をしてみて無理矢理入れられただとか嫌々今も続けているといった様子ではなく、むしろ部活のメンバーとの関係は良好以外にないといった事が尚更に嬉しかったのだ。オタクである坂道は友達が出来にくかったのは知っていたから、そういった繋がりが出来たのもあってである。

そしてそんな坂道を坂道らしく育ててくれたのが今の妻であるのだから、小五郎からしたら感謝するしかなかったし坂道がロードバイクを続けるつもりでいるのなら自分も応援していくし、仕事も頑張っていける・・・と、一層強く思えるようになっていた。かつての前世とは比べ物にならないくらい、充実した気持ちを抱く形で・・・









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