得られた平穏と望まぬ平穏の二つの平穏

「お疲れ様、貴方」
「あぁ、ありがとよ」
・・・そうして坂道とのサイクリングも終わり家に帰ってきた小五郎は風呂から上がり、妻から渡された麦茶の入ったコップを手に取りグイッと飲み干す。
「ふぅ~・・・生き返ったぜ。つーか本当に坂道があんなに早いとは思わなかったな・・・」
「そうでしょ?私もあんなに早く自転車で走れるものなんだって思っちゃったわ」
「まぁアキバや俺のとこに来るのと、あの坂の行き来を何回もしてりゃそりゃ鍛えられはするだろうが・・・本当に坂道が自転車競技部に入ったのはいいことだったんだな」
「えぇ、そうね。この前も今泉君に鳴子君も遊びに来てくれたけど、本当にいい子達だったわ」
「はは・・・俺も会いたかったな、その二人に」
一気に麦茶を飲み干しコップを返して会話をする中身は坂道の事で、二人は穏やかに笑いあった。本当に息子にいい出会いがあったものだと。






・・・小五郎が初めて後の妻に出会った時、妙にズレているというか天然な人物だなという印象を抱いた。常人なら気付くはずだろうことに気付かず、どこか抜けている部分があると。しかしそれらを補ってあまりあるようなパワフルさだったり、人としての確かな優しさを持った人物でもあるとも感じていた。現に友達も多く、悪く言われるような人ではなかった。

そしてそんな不思議な魅力というかパワーのある彼女に関して、小五郎は次第に興味を持っていった・・・前世での妻である英理を忘れた訳ではないし、見た目のレベルとしては失礼な話と承知で言うなら英理の方が優れているというのも今も小五郎は思っているが・・・見た目に関しては普段はボケボケではあるがそこまで悪い見目ではないし、英理にはない自身を惹き付ける物・・・言うならば母性のような物を感じたのだ。

そうして彼女と交流をしていく内に英理への気持ちについては無くなったとは言わないが、転生をして誰も周りに知り合いが転生をしていないことについては把握していた為に英理についてを考えることを小五郎は止めることにした。そしてそういった考えから彼女と交流をしていく内に・・・結婚をするという流れになって、そうすることにしたのだ。今生ではこの女性を大事にするし、英理のように険悪な事にはならないようにしようと。

そしてそんな小五郎は結婚をすると共に、企業のサラリーマンとして就職した・・・前世では警察官になって探偵という道を選んだが、前世の経験上からもう厄介事に巻き込まれたり自ら飛び込むような事をしたくないと思ったからである。それで選んだのがサラリーマンであるが、そうして暮らす中で産まれてきたのが・・・坂道である。

坂道が産まれ妻が坂道と名付けたいと言い出した時、それでいいのかと思いはしたがどういった意味でその名を付けたいのかと聞いた時にならそれでいいと決めた。決して安易だったり、前世でも割と聞いていたキラキラだったかDQNネームだったかのような感じで考えた中身ではなかったからである。

そうして坂道が産まれてこれからも頑張ろうと思っていた小五郎だったが、そんな小五郎に出てきた辞令が・・・今働いている会社の本社がある東京に来て働くようにといったものであった。









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